異変
今回は視点が変わっています。
これから会話が多くなっていく予定……
(事情により、PC投稿が出来ませんでした)
その日、“スチートパイク”の施設にて、不可解な“物体”が観測された。
アルガ・シェルフェレームは、先程から観測機と睨み合いをしている。
未だ前例のないその“物体”は、青白い光を放つウイルスだった。
「おい、これはどのような症状を引き起こすんだ。」
愛想の無い声が、側にいた部下にかけられる。
「ま、まだわかっておりません……。」
「何だと?」
アルガが鬼の如く恐ろしい顔で、部下にグイっと近づく。
その形相は、女性であることを忘れさせてしまうものだ。
「この映像が観測されたとき、何故その場にすぐさま向かい、この物体を採取しなかったんだ。」
「そ、それは……その数分後には、物体が映っていなかったので……」
「映っていなかったから採取に行かなかったと?
この観測機とて所詮は機械だ、映らないのではなく映せなかったという可能性もあると思わなかったのか?
お前のその浅薄な自己判断のおかげで、危険かも知れないウイルスの研究チャンスを無くしたんだ。
ああ腹立たしい、何てことをしてくれたんだ。
……突っ立っていないでとっとと様子を見てこい!!」
ビクリと身体を跳ね上がらせた部下は、逃げるように現場へ走った。
騒々しさの消えた研究室で、アルガは落胆の溜息を大きくつく。
(あれは初めて見るウイルスだった。色も見た目も、どの資料や本にも書かれていない。
本当に新種だとすれば、あれの引き起こす症状、それの対策も練らねばならないというのに。)
もう一度大きく溜息をつく。
アルガが苛立つのも無理はないだろう。
あの男の判断で、もしかすると世界が破滅するかもしれないのだから。
ウイルスは危険なものに他ならない。歴史上の事を踏まえると、青や紫を放つものには良いものがない。
先程のあれも、青白さを放ち、消えていった訳だ。
最悪な事態にならないことを祈るほかない。
「いつもより怖い顔をしてるよ、アルガ。」
その空気をぶち壊す、柔らかい声が響いた。
アルガは顔も上げず返事もせず、黙々と資料を確認している。
「ほら笑って。ね?」
「うるさいぞコンフェル!お前に付き合っている暇はない!」
コンフェルと呼ばれた男は、感情の表せないはずの顔で笑った。
「そんな怒らないでよ、君を手伝いに来たんだから。お困りなんでしょ?」
「……暇ならあのウイルスについて調べろ。」
観測機に何度も映るウイルスをぶっきらぼうに指さすと、アルガはまた資料に視線を落とした。
じっくりとその映像に目を通した後、コンフェルは「見たことないな……」と呟く。
その発言に、アルガは冷や汗を流す。
コンフェルは“人外”のなかでも長寿な種族だ。
そんな彼が、見たことがない、何て言うのだから、新種であると明言されたのも同然だろう。
少し前に、最悪な事態になるなと祈ったばかりだぞ。
悔し気にアルガは唇を噛みしめていた。
・・・・・
「おや、これは。」
一度見たら忘れられなさそうな、恐ろしい見た目の“人外”から、低く抱擁感のある声が発せられた。
その大きな手の中には、ノートが開かれている。
彼はジェンティセラ。二メートル後半はあるであろう身長と、目や鼻の無い顔。片側に裂けた口が特徴的だ。
もう一度深く唸る彼の部屋に、まだ若さの残る少女が入ってくる。
「“死神さん”、もしかして何かあった?」
「その通りです幸音。少し不可解なことが。」
死神さん、という呼び方でわかるとは思う。そう、ジェンティセラは死神と呼ばれる種族だ。
主に閻魔の居る地獄から生まれ、二百年前後かけて大人になると世界に派遣される。魂を案内する存在。
そして、そんな彼の側に立ち、身長差を感じさせる少女は幸音。ごく普通の女の子。
年齢差も激しい二人が、何故出会ったか。そして何故共にいるのか。それは違う時に話したいと思う。
「で、なにがあったの?」
「……いえ、貴方は知らない方がいいでしょう。それに、きっとミスですよ。」
一瞬、不安そうな顔をした幸音を優しく撫でると、ジェンティセラは立ち上がり、オフィスへ向かった。
彼は優秀故に、地上の死神たちを束ねる存在だ。少し違うが、社長のようなものと捉えてほしい。
もう少ししたら戻ってくるであろう、他の死神達を待ちながら、ジェンティセラはノートに現れた“異変”について考え始める。
(閻魔に聞きに行きましょうか、それとも創造神の皆さん?
この件に関しては、閻魔も私と同じ反応をするでしょう。性格上特に。
となると、やはり創造神の方々のところですかね。
幸音も、彼らには心を開いていますし、安心するでしょうから。)
うんうんと、一人納得したようだ。
この時から、少しずつ異変が起き始めていた。
このことはまだ、私と、この話を聞いてくれている貴方しか知らない。
もう少し先で何が起きるのか……。って、なんか慣れない口調だな。
ともかく、小さな異変は確実に、大きくなり始めるのである。