本の部屋
本の部屋に入ると、暇なときによく読む本がスーッと飛んでくる。
今のでお気づきだとは思うが、この世界の本は、清潔に扱ってよく読んでいると“懐く”のだ。
懐いた本が、窮地から持ち主を救ったのも見たことがある。
せっかくだし、魔力について説明していこう。海で言った、“何故人間の姿をとるのか”についてもね。
じゃあ早速。
きっと君たちの世界でも“魔力”ってよく聞くと思う。こちらの魔力も、君が想像しているであろうものとほぼ同じだ。
この世界の大半の者は、生まれた時から魔力を生み出せる。
成長していく中で、魔力が大きくなっていくものが多い。が、勿論例外も多い。
生まれたその瞬間から、巨大な魔力を宿すものもいる。人間では、まだそのようなものは見たことがないね。
成長して莫大な魔力を持った者は数名いたが、生まれてすぐっていうのは……やはり人間でないもの。“人外”に当たる者か、ドラゴン等の巨大な体躯を持つものだった。
魔力が莫大な者は長寿だよ。本当に長くて二億年程生きている者も居る。現在も私の知人だ。
先程の、本が持ち主を救った話だが、あれも魔力が関係していてね。
長年読んでいた本は、持ち主の魔力を少しずつ吸っており、その魔力で魔法を放ったことによって結果的に持ち主を救った、というわけだ。
この特性を生かした職もあるようだよ。いやあ、知らぬうちに発展してるんだね~。
じゃあ、人間の姿をとる理由だ。
正直、理由は単純。“人間が本来の姿を恐れたから”だ。
畏怖されることも大事なことだけれどね、どうも美しいと思えなかった。
だから私は、人の姿をとることにしたのだよ。他の創造神達は私に合わせたようだね。何故かは知らない。
ただ、それは飽くまで私の決断だ。他の神の中には、本来の姿のまま生活している者もいる。
それはそれで良いとは思うから何も言っていない。無理に合わせる必要はない、それぞれで良いのさ。
あれ、あっさり終わってしまったね。
これは早く調べろということだな?フフフ、分かったよ。調べようじゃあないか。
「“唐突なる破壊衝動”についての本よ。ここへ。」
…………
………………ん?
あのー、本の皆さん?
「……まさか、一つずつ探せと……?」
……ああ、どうやらそのようだよ。なんて事だ。この数の本の中から探せって?
流石の私でも、腕と目がやられちゃうよ。
これはお助けを呼ぼう。
私は自分の影を三回叩く。すると、私の影から大きな影の塊が分離する。
その塊はグググと盛り上がって、上半身は人、下半身は影のような煙のような姿になった。とてつもなく語彙力がなくて申し訳ない本当。
「……本を探すのですか?」
「その通りだよソンガーロ。大変なんだ、力を貸してくれるかい?」
「もちろんです」
この子はソンガーロという子で、私が直接生み出した存在だ。
「影」と呼んだり、そのまま名前で呼んだりする。どちらで呼んでも必ず来てくれるから、とても助かっているよ。
執事のような服装__これは誕生の際、ハクが側にいたから__をしているけれど、どちらかというと、“使い魔”の方に分類される。
私の影から生み出したんだから、やっぱり強いよ。フハハハハ!
なんて言っているうちに、「影」はさっさと本を探し始めていた。
ううむ、主が先に探すべきだろうに。やらかしたのう。
私もそそくさと本探しを始めた。
のだがしかし。
一向に見つからない。どれだけ探しても見つからない。何故だ。
確かに、あの現象についてはシダですら知らなかった。けれども、似たような事の一つや二つはあっただろう!この世界出来てから何十億年経ってるんだぞ!?
ええ……完全に前例のない現象ですね、はい。一つや二つあると思ってたからビックリだよ。
記録も何も無い、てことは、一から探さないとならないね。その原因を。
といっても、何があってそうなってしまった、という証言が無いから、探すといっても目星も無いし。
あるとしたら、鮫の子達が居た辺りの海とかかな?何か見ていないか、島に聞きに行こう。
後は、ハク達が戻ってきたらだな。
あいつらが何か見ていたり、同じような現象の子と接触していたらありがたいんだけど。
「『影』もういいよ、すまないね」
「いえ。お力になれず、申し訳ありません」
「今回の件は仕方がないさ。もし何か見つけたりしたら、私に教えてくれるかい?」
「はい。お任せください」
そういうと、「影」はシュルリと私の影に戻る。
名前の呼び方はその時の気分だから気にしないでおくれ。
うーん、それにしてもだ。
この世界が生まれる直前から存在するここの空間は、世界での出来事(災害、発展等)を記録し、本の部屋に蓄えるという何とも便利な事をしてくれる。
ミスや書き間違えは無い。そんな本たちを、開いて開いて探したというのに、全く手掛かりが無かったのだ。
まさかとは思うが……誰かが造り上げた生き物だったり。
実際、人間が造り出した存在もいるわけだから、可能性はゼロではないね。視野に入れておこう。
ああ、今日は驚く事が多いな。出来れば、もうないと良いのだけれど。