力仕事は得意です
水が届かないって相当やばいことだと思うのよ。うん。
私みたいな狭間に住む存在はね、正直食事をしなくても水を飲まなくても、最悪寝なくても平気なんだけど。
普通ーに生きている者達からしたら、水って一二を争って大事でしょう?
飲まなきゃ死んでしまうらしいし。特に、木々なんてもっと必要じゃないか。
ということで、物凄く急いで向かっている。
でもまた、どうして端と端に依頼場所があるんだろうか。
火山があったのが左端だとしたら、木々の場所は右端な訳で。翼を動かす度に、景色が目まぐるしく変わっているよ。
三件目はどうか近くにありますように。
何で瞬時に移動しないかって言うと、木々の場所が特定できないからだよ。
火山は精霊に会いに行ったり、そもそもこの星で1番大きい火山だから、よく覚えているんだけど、木々については……単純に木が多すぎてどの子か分からない。
故に、ね?上から見て、木々に話しかけた方が楽だなーと思いましてね。
それにしても、この星って本当に島国が多いんだなぁ。何時も上から見て居たから。
実際に見るとやっぱり実感が湧いたよ。
よーし、着いた。
今回の木々が居る島は少し複雑な島でね。島の中心にひとつだけ国がある。そこには王族もいる。けれど、その周りは開拓されない自然のままで、古くからの部族達が栄えているんだ。
だから、国があるのに古きの部族達の方が人数が多い。敵対はしていないみたいだから安心。
で、自然の者達が暮らす森の上に、今私は居るわけだ。
全体的に見渡せる位置にいるから、ここから発信してみるよ。
私はそっと目を閉じて、木々の言葉を念じた。
……お、すぐに反応が上がったぞ。
声のした方へ向かっていくと、どんどんと木々の色が落ちていくのが目に見えてわかった。
まだ青い色を残した木にとまり、話しかけてみる。
植物との会話は少し難しい。この子達は動物達の発する"言葉"をもってはいない。けれど"言霊"は持っているのだ。
言葉と言霊の違いは、音か念か、ということ。
動物達は言葉を音にして伝えるけれど、木々は念として送ってくる。
頭に直接響く、というよりは、流れてくるようなものだ。文字が浮かんでくる、の方が近いか。
この森に住む部族達と一部の神は木々の言葉を使える。
普通の動物達で使えるものは見たことがないな。数億年見てきたけど。
ちなみにこの子からの返信内容は、『急に水の流れが止まりました。原因はわかりません。長寿の者はまだ無事ですが、若い者達は苦しんでいます』との事。
誰かが塞き止めたのか?あの滝を?川を?まさか、結構広いよ?幅。
ここで唸ってても仕方ないな、現場に直行しよう。今回は瞬時に移動出来るし。
…
……
はい、着いたって、うわぁお。水がほぼ無い。これ何があったんだい。
ふいっと滝の上の方を見てみると、なんということだろう、ダムのような何かが作られているじゃないか。
近所迷惑だよー。多大すぎる近所迷惑だってー。
ほら見てご覧よ。魚だって苦しげに、パタパタして跳ねているじゃないか。
そりゃ辛いよな、今解決するからその間我慢していてくれ。
私は魚達を1箇所に集め、大きな水を作りだし、そこにその子達を入れた。応急処置だ。
一つ溜息を吐いたあと、ちょいとジャンプして、ダムの上に着地する。
そして気づく。
あら、これダムじゃないわ。
思いっきり生き物だよ。滅茶苦茶大きくて、木で作られたダムかと思ったけど。
……それにしてもこの子の種、こんな見た目だっただろうか。
後でシダに聞いてみたい。特徴を覚えておかないと。
"毛皮がゴワゴワしてて、羽もある。けど飛ぶのには使わなさそう。というか飛べないな。翼の割に身体がでかい。
鳥と鼠を合体させたみたいな容姿"
このゴワゴワの毛皮が木みたいに見えたのか。色も似てるし……て、んな事本当はどうでもいいんだって。ちょっと貴方どこで寝てんの。
「すいませーん?あのー、起きてくださーい?ちょっとー?」
「…グー……グー………」
「聞いてますー?起きてくださいー?起きろー?」
「…グー……グー………」
爆睡じゃないか。結構大きめのボリュームで話しかけてるんだけどな。
あー、すまない。気持ち良さそうに寝ている所、申し訳ないが、私はその生き物を軽く蹴り飛ばした。
……つもりだったんだけど、ちょっと力強すぎたかな。奥の方へ転がってしまった。呻いてるし。
少し移動したぐらいじゃ、水は僅かにしか流れないか。これは移動してもらわないと。
「……ヴヴゥ……痛たい…なんて事を…」
「ごめんよ。君があまりにも起きないものだから、つい。」
「…オゼ様!?も、申し訳ございません……なんという御無礼を……」
「いやいや、別にいいんだ。それより、君、何でここで寝てたんだい」
「い、いやぁ…その……私、睡眠欲に忠実でして……眠気が来て、ついパタリと寝てしまったんです……」
そんな単純な理由で……ここの木々は苦しめられてたのか……。
「それにしても、水の上で寝る必要は無いだろう」
「水の上も草の上も同じです。眠れるのなら」
「いやそういう事じゃないぞ?」
天然炸裂しなくていいから。そんな穏やかな笑顔でこっち見ないで?頼むよ。
なんか罪悪感出てくるから。いや出なくていいんだけど。
「……とにかく、君がここで寝てるせいで水が止まっていたんだ。地域が乾いちゃうし、少し移動してもらえるかい?寝るのは全然いいから」
「何と、それは申し訳ありません。すぐ移動します」
のっそりと起き上がったこの子を、木々に被害が無いような場所へ連れていく。
ゴロンと、滝から離れた場所にある大樹の根元に横になると、本当に数秒で寝た。マジかよ。
すやすや気持ちよさそうに寝息を立てて、幸せそうに寝ている。
いいね、"寝る事に貪欲"か。"美しい"ね。私からすると輝いて見えるよ。
その子の周りに良い香りのする花を咲かせると、私は先程の木々達の上空を飛んだ。
『もう大丈夫』と念じると、『ありがとうございます』と返ってくる。丁寧な言霊だった。
よーし、最後の一つ__になることを祈る__の神頼みを確認する。
三件目のお願いは、調査っぽいな。神に調査させるって、ある種とても不思議な事だ。
ここからの距離は……まぁ近いかな。端から端じゃないだけ、断然いい。
私はのんびりと欠伸をした。