表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/27

8

 「なんやかんやね……」

 恐る恐るエンデレは周りを見渡した。ここもまた、エンデレの見知らぬ風景だった。

 どこか山の中のようだった。木々が剥げて岩がむき出しのでこぼこ地帯だった。おそらく山頂付近のようで、天にのぼる大木が見えないから、妹のいる丘ではないようだった。

 エンデレは、左手の甲を確認した。針はまだ真上を少し離れた程度で、進みは今までと比べると大分遅いようだった。

 すぐ近くで、とてつもない獣の叫び声が鳴り響いた。エンデレが叫び声の方を向くと、走ってくるドラゴンがいた。

 「うわあ」

 人間が追い掛けられているようだった。

 ドラゴンを背に走りくる人間が、エンデレに気がついて、驚愕の表情を浮かべた。

 「おい! こんなところで何をしている!」

 若い女性に見えた。長髪で綺麗な顔をしているが、それが装備しているごつい鎧とアンバランスだった。

 エンデレは、ぽかんとしていた。

 「ええと……」

 「逃げろ! ドラゴンがきてるんだ! 見ればわかるだろ!」

 「あ、はい」

 言われるがままにエンデレは全速力で走った。その後ろを鎧を着た女性が走って、そのまた後ろを獰猛なドラゴンが地面を揺らして走った。

 エンデレは決して足が遅い方ではなく、むしろ平均よりずっと速い方だったが、逃げているうちに、次第にエンデレと鎧の女性が並んでいった。

 女性が走りながら、焦ったようにエンデレを睨んだ。

 「遅い! もっとはやく走れないのか!?」

 「ちょっと、無理、だ」

 エンデレは懸命に足を動かしていたが、女性がエンデレを追い越しかけていた。

 「ぐっ……ええい!」

 女性は覚悟を決めたような掛け声を上げて、腰に差していた剣を勢いよく抜いた。

 そして、急ブレーキをして振り向き、走ってくるドラゴンに剣を向けた。

 ドラゴンは、剣を向ける女性に、上等だと言わんばかりの叫声を浴びせた。

 女性は、背後のエンデレにすばやく視線を寄越して叫んだ。

 「私が引きつけておくから! はやく逃げろ!」

 「わかりました」

 エンデレはさっさと逃げた。

 エンデレの背後で激しい戦闘音が繰り広げられた。山が壊れそうなほどだった。

 聞こえてくるドラゴンの恐ろしい叫び声に、エンデレの体は竦みそうだった。

 「まだ、まだ死ぬわけには……」

 エンデレは全速力で走った。気持ち悪くなって吐きそうになって、全身が痛くなって呼吸が汽笛のようになっても、頑張って走り続けていた。

 走っている内に、左手の甲の針が一周した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ