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 「なんやかんやね……」

 転移して、恐る恐るエンデレは周りを見渡した。ここもまた、エンデレの見知らぬ風景だった。

 どこか山の中のようだった。木々が剥げて岩がむき出しのでこぼこ地帯だった。おそらく山頂付近のようで、天にのぼる大木が見えないから、妹のいる丘ではないようだった。

 エンデレは、左手の甲を確認した。針はまだ真上を少し離れた程度で、進みは今までと比べると大分遅いようだった。

 「はー……」

 エンデレは力なく腰を下ろした。実際の時計を見ると、一刻ほど経っていた。

 「……」

 エンデレは頭を抱えて、うんうんと唸った。エルの事が心配でしょうがなかった。虚ろな瞳で、ぶつぶつと独り言を続けている。

 「エルはどこだ……もう無理なんじゃ? なんやかんやってなんだ……」

 今までの事象に理解が全く及んでいなかった。

 「……はー」

 エンデレは溜息をついた。手の甲を擦ってみるが、針の動きになんの影響もない。

 「何が何だかわからない……待つしかない。待つしかないが……」

 エンデレは空に左手を伸ばして、しげしげと甲の針を眺めた。

 「……ァァァ」

 眺めているうちに、遠くから微かなけたたましい音が聞こえた。甲高く不快な音で、何かの鳴き声のように聞こえた。

 エンデレは慌てて立ちあがった。

 「……」

 エンデレは注意深く周囲を窺った。岩の凹凸ばかりで、近くに不審な影は見当たらない。

 耳をすませて、何か続く物音がしないかを探った。

 すると、微かに振動音が聞こえた。規則的に辺りに響いているのが耳に入る。

 エンデレは素早く地面に這いつくばった。

 注意深く聞こえてくる音に集中した。ドシンドシンと、まるで巨大な生物が大地を踏みしめているかのような音がして、小刻みにこの場所が揺れているような気さえした。

 「大型獣か? 随分と大物のような……」

 エンデレはすぐに左手の甲の時計を確認した。針はまだ右を指し示している。まだ4分の1しか、転移するまでの時間は経過していない。

 「……くそ。身の危険ばかりだ」

 時折鳴り響く叫音が次第に大きくなってきている。

 エンデレは自分の装備を確認した。武器は無い。今役立ちそうなものもない。

 エンデレは周囲の地形を確認した。凹凸が激しい地形のようで、隠れられそうな岩の陰を見つけた。とりあえずエンデレはこそこそとそこに隠れた。

 「……」

 そっとエンデレは岩の陰から様子を窺った。規則音は次第に大きくなっていって、徐々にその主が姿を見せ始めていた。

 全長が建物くらいのドラゴンが現れた。かなり急いでいるようで、叫び声を上げながら走ってきていた。

 「……」

 エンデレはドラゴンの前にいる人間が気になった。

 若い女性のように見えて、重そうな鎧を装備しているくせにとても素早くドラゴンから逃げていた。

 もの凄い勢いで走ってきて、岩の陰にいたエンデレにも気付かず通りすぎていった。

 そしてそのすぐ後をドラゴンが恐ろしい速度で追いかけて行った。

 しばらく経って、何も音がしなくなったころに、やっとエンデレは岩の陰からのそのそと這い出て、ドラゴンたちが去って行った方をぼうっと眺めた。

 「……なんだったんだ」

 そしてエンデレは座り込んで、転移魔法が発動するのをただ待った。

 「……不安だ」


 『巡る場所には一貫性があるの』

 『……』

 『そこであなたは何かをしなくてはならない』

 『何かって?』

 『具体的にはわからない。でも、転移を通じて、ある何かをしなくてはいけない』

 『……』

 『そうしないと……』

 『……』

 『あなたは一生エルの元に辿り着けない』


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