表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/27

5

 視界の移り変わりは一瞬だった。

 エンデレの目からエーリを含む空間が歪んだと思うと、瞬く間に景色が一変した。

 そこは、暗い室内のようだった。

 「……あれ?」

 エンデレは慌てて周囲を見渡した。先ほど前までの明るさが嘘のように薄暗く、見覚えの無い室内を小さいランプだけがじりじりと照らしていた。室内はこじんまりとして狭く、木製の椅子や机が倒れて散らばっている。エンデレが何か踏んでいることに気付いて床を確認すると、食器の破片らしきものが散乱しており、まるで夕食時に暴漢が現れて暴れたかのようだった。

 「いや、エルは? どこだここ……」

 エンデレは小さな窓と扉を見つけた。

 窓に近づき、外を窺った。

 外は霧で覆われ、何があるのか視認できなかった。しかし、ぼんやりとした陰の形から、おそらくどこかの街中ではないかと推測できた。

 ここは無人の家の中のようだった。少なくとも、丘の頂上ではない。

 「エール?」

 エンデレが呼びかけるも返事はない。ふと気になって、エンデレは左手の甲を確認した。そこには光の紋様が時計のように針を映していた。時計の針は真下を指し示して、徐々に回転しているようだった。

 次にエンデレは懐から実際の時計を取りだした。順調に針が動き、エルが魔鳥に襲われてから時間が少しずつ経過している。

 「やばいな……保っててくれよ」

 エンデレはもう一度窓の外を覗いた。どこまでも霧で薄暗い景色だった。

 「……」

 エンデレは、判断に困った。どうすればいいのか全く分からなかった。そして意味不明な事態に段々と怖くなっていった。

 天井につるされているランプの光源は頼りない。そのせいで、室内の様子もはっきりとは判別できなかった。

 後ろを向いて、エンデレが室内をじっと目を凝らして観察すると、先ほどは薄暗くて気が付かなかったが、良く見ると壁と床に血がべったりと張り付いていた。

 「うわ」

 エンデレがよろめいて机に手を付くと、感触がぬるぬるした。これもよく見ると、エンデレは丁度血だまりに手を突いていたようだった。

 「うわわわ」

 ここでエンデレは奇跡的な勘を発揮した。エンデレは急いで部屋の扉の鍵を閉めにいった。なぜかというと、微かな足音がここへ近づいてくるのを聞きとったのだ。

 鍵を閉めてから、外から扉がこんこんと叩かれた。エンデレは息をひそめた。

 すぐに扉をギシギシと押す音が聞こえた。

 突如扉が激しく叩かれ、段々と叩く力が強まった。激しい音に扉が軋み始め、ガンガンともの凄い音が部屋を打ち続け、扉がひび割れて、今にも裂けそうになって、ついに扉に大きな亀裂が走った。

 すぐさまエンデレは窓へ走った。窓を開けようとしたところで、後ろの扉が破裂した音が聞こえた。

 「ええい!」

 エンデレは窓を力いっぱい蹴破って、強引に外へ躍り出た。そして全速力で霧の中を走って行った。

 すぐ前ですら、霧で何も見えなかった。しかし奇跡的に障害物に当たらず走っていくうちに、左手の甲の針が一周しようとしていた。

 エンデレは走りながら後ろをちらりと見た。

 霧で何も見えないが、霧の向こうからホッホッホッと息切れが聞こえてきた。

 「……気持ち悪!」

 エンデレはわけもわからないまま光に包まれて転移をした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ