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 その丘は地元では有名で、誰も立ち入ろうとしない場所だった。

 丘と呼ばれるわりには、山のように大きい。無秩序に木が生い茂り、ときどき街に出没する危険な魔物は大体がここを根城にしており、人の手が入った部分はどこにもない。危険な場所として子供には出向かないようにと教えられる場所だった。

 ただ、丘の頂上に生えるでかい木はまさに圧巻で、街の近くなら、天にのびるその大木がどこからでも見えた。古くからそこに存在しているようで、街の人間からある意味名物のように親しまれている大木ではあるが、それを間近で見ようとする人間も、そこに登ろうとする人間もこれまでにいなかった。

 「うっし……行きますか!」

 「元気ね……なんでかしらないけど」

 三人は丘を進み始めた。エルが先頭を意気揚々と歩き、それに続いてエーリがうんざりと、最後にエンデレが黙々と殿を務めた。

 エルが足荒くドシドシと荒れた土のデコボコを踏みしめていく。とにかく歩きにくく、見晴らしも木々のせいで良くないが、エルは元気に歩いていた。

 「……」

 エーリは慣れない足取りで、急な突起物に躓きそうになりながら、ぎこちなく登っている。いつもの黒いローブをまとっていつもの大きな杖で地面をついていた。

 エンデレは二人について、無心に歩いている。

 エーリが疲れてときどきふらつきながら、後ろのエンデレに向かってぼそっと呟く。

 「丘って言うか山よね……」

 「山よりは小さいけどな」

 「私からすればどっちも変わんないわよ……」

 エーリは早くも息をふうふうと漏らして、難儀そうに進んでいた。杖を支えに、頼りなくぽすぽすと地面に杖を突きさしつつ山道を歩いている。白い肌に汗が流れて、上気した赤が目立っていた。エンデレはそんなエーリをフォローしようと、背中に手を添えた。

 「こけないように気をつけろよ」

 「言われなくても……はあ、疲れる」

 「歩けなくなったらおぶってやろうか?」

 「いらない」

 エンデレはエーリの背中を支えながら、ゆっくりとエーリに歩を合わせた。エンデレの方は苦もなく軽い足取りで登れていた。

 「今日は悪かったな、こんなことに付き合ってもらって」

 「ほんと、どうかしてるわよ。断ってもどうせ聞かないんだろうし」

 「ははは、悪いな……今度、お礼するよ」

 「お礼をくれるんなら、体が欲しいわね」

 「ううん? エッチな話題か?」

 「違うわよ死ね……ちょっとした魔法の、実践相手が今欲しいんだけど」

 「……ちょっとした?」

 「そう。噛み砕いて言えば、ちょっとだけ夢心地にしてくれる魔法なんだけど」

 「絶対危ない魔法だろうそれ……」

 「ところがどっこい。副作用も後遺症もないのよね」

 「悪いけど、できれば別のもので」

 「えー」

 不満げに声を漏らして、乱暴に杖を地面に何度も突き刺した。エーリは大袈裟に唇を尖がらせた。

 「お得なのにい……」

 エンデレはエーリの魔法狂なところに少し呆れていた。

 「実験が必要な魔法を人に試さないでくれ……まさか、あの怪しい御先祖様の遺物魔法だったりするのか?」

 「まさか。自作よ。そんな得体のしれない魔法をあんたたちに使える訳ないでしょ」

 「まあ、俺からしたら、どっちも怪しげなんだけどな」

 「あら、そんなことないでしょ。なあに? 私を信用できないってこと?」

 エーリはクスクスと笑った。

 「……エーリの方が幾分かマシではあるな」

 エンデレはにやにやしながら首を振った。

 エンデレがふと前を見ると、エルがずんずんと先を進んでいって、自分たちとの距離が離れそうになっていることに気付いた。

 エンデレは声を張り上げる。

 「おーい! エル、ちょっと歩く速度を落としてくれ!」

 「えー! 二人が遅いんだよお! もっと速く歩いて!」

 「無茶言うな! 俺はともかくエーリが無理に決まってるだろ!」

 「むおー!」

 「ああ、いいのよ? 先に行っても!」

 エーリが口に手を添えて、不敵に笑いながら大きな声を出した。

 「ただし! 獣除けの魔法は、私から離れ過ぎると効果が無くなるわよ!」

 「そうなの……?」

 「私を起点にして、結構広い範囲を持ってるけど、あんたの足ならはみ出して魔物に遭遇しちゃうかもね」

 「どういう効果なんだ?」

 エルが悔しそうな顔で歯ぎしりをした。

 「くーっ……」

 「ふふふ、あんたの安全は私に委ねられていることを忘れないように。精々私の動向を気にしながら歩くことね……」

 「うーっ……!」

 散々頭を抱えてうんうん唸って、じたばたと地団駄を踏んでから、ようやく諦めたようにとぼとぼとエーリ達のいる所へ戻ってきた。

 「……ただいま」

 「なんでそんなに先を急いているんだ」

 エンデレは呆れながら、勝ち誇るエーリと悔しそうなエルを眺めていた。

 エルはキッとエンデレを睨みつけた。

 「私は追いかけて欲しいタイプなの」

 「傍迷惑な奴だ」

 「なにをぉ!」

 エルが頬をパンのように膨らませて、ぷりぷりと怒りながら、やかましく足をふみならして前を歩いた。

 「……情緒不安定ね。何かあったの?」

 エーリがこっそりとエンデレの耳元で囁いた。

 「……まあ、いろいろと」

 エーリは肩を竦めて、黙々と歩いた。

 エンデレは溜息をついた。


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