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 「……」

 エンデレは、暗闇の中で、壁にもたれかかってぼんやりと座り込んでいた。

 「……」

 牢屋にいるようだった。どこかの空き家を使った、人攫いの商品格納場所。

 ふとエンデレは左手の甲を見る。

 最初は煌々と光っていた光の紋様が、今は薄くなっていることに気付いた。白い線だけがうっすらと浮かび、暗闇を照らすほどの光量が失われている。

 エンデレは、しげしげと手の甲を見つめた。

 それからエンデレは、きょろきょろと辺りを見回して、隣の牢屋へ顔を向けた。暗くて、壁すら見えない。

 何もない暗闇をしばらくじっと見つめてから、エンデレは口を開いた。

 「……おーい。いるか?」

 「エ、エリンギ!」

 声をかけられた子供は、驚いて慌てたような声を出した。

 「生きてたの!?」

 「あー、うん。まあな。心配かけたか」

 「三日間ずっと返事が無くて……もう、死んじゃったかと……」

 「そうか。三日間か……」

 「……私、あいつらに、言ったんだけど……」

 「え? 何を?」

 「……ちゃんと、エリンギにもご飯をあげてって……でも、無視されて……」

 「あー……そんなの、いいのに……」

 「ぐ、ふぐ……ぐぐ……」

 子供はまた奇妙な声を出した。

 「……その、何だろうな……」

 エンデレはどうすべきかとても迷った。そもそも、エンデレがどうしてここに転移されるのかも全く分からなかった。

 「ぐ、うぐ、ぐぐ……」

 しゃくり声を我慢するような、奇妙な声が暗闇に響いた。

 「……泣けばいいのに」

 エンデレは小さく呟いた。

 「う、ぐ……」

 エンデレはぶるぶると震えて、思いっきり立ち上がって、扉の方を勢いよく手探りで進んだ。

 そして、扉の前に立つと、思いっきり扉を蹴っ飛ばした。

 「ふん!」

 跳ね返されて、エンデレは後ろに倒れた。

 「エ、エリンギ? 何してるの?」

 「あー! 畜生! 死ね!」

 「ね、ねえ、頭大丈夫? 狂ったの? おなか減り過ぎてヤバいの?」

 「……そう言えば、名前聞いてなかったな」

 「……え?」

 エンデレは倒れながらぼんやりとしていた。

 「名前。最初に訊いて、断られたけど。今なら、どうだ?」

 「……」

 「実はな。俺も偽名だったんだ」

 「え?」

 「エリンギじゃなくて、エンデレ。見事に騙されたな」

 「そ、そんな……」

 「はっはっは。エンデレです。ほら、エ、ン、デ、レ」

 「……エンデレ」

 「そうだ。それで、君の名前はなんだい?」

 「……リーシュ」

 「リーシュ。誰に付けてもらったんだ?」

 「……お母さん」

 「そうか。どんなお母さんだった?」

 「優しくて…………」

 「……そうか、優しいか。お母さんは、優しいよな。そりゃ、そうだよ……」

 「……」

 「……俺にも母さんはいたんだけど、俺がかなり小さいときに死んでしまった」

 「……」

 「父親もいたんだけど、俺がもう少し大きくなった後に、死んでしまった」

 「……」

 「妹がいるんだ。俺が守ってやらなきゃいけない。いけないんだけど」

 「……」

 「……でも」

 「……」

 「……」

 エンデレは、口を開こうとして、続く言葉が思いつかずに、閉じて、知らず、口から言葉が飛び出た。

 「嫌いだった」

 エンデレは、目を見開いて、苦しそうに表情を歪めた。

 「こんなことは、言うべきじゃないけど、疎ましかった。うざかった。面倒くさかった。でも、本当は、本当は好きだったんだ」

 エンデレは頭を掻きむしって、唸った。

 「……後悔していた。チャンスもあった。でも、その度に、父さんの顔や、言葉が頭に思い浮かぶんだ……」

 エンデレの言葉は続かず、しばらく静寂が暗闇を支配した。

 「事情は知らないけど……それなら」

 子供がぽつりと呟く。

 「いつか、仲直りができるといいね」

 エンデレは壁を向いた。

 「きっと、できるよ」

 時計の針は、もうすぐ一周しようとしていた。

 「……そうかな」

 エンデレは目をつぶって、深く息を吐いた。

 次第にエンデレの姿は光り始めて、やがて消えた。

 「ねえ……エンデレ?」

 リーシュの声が誰もいない部屋に響いた。


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