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 「……え?」

 エンデレはふらふらとしながら歩いた。

 「なんで……俺……」

 すれ違う人と肩がぶつかりそうになって、立ち止まる。

 「俺……今……」

 無意識に顔を触る。どこも裂けていない。

 道行く人が、不審そうにエンデレを見ながら通りすぎる。鼻をつまんで、不快そうに眉をひそめる人もいる。

 「俺は……」

 顔を両手ではさみながら、見開いた目をぶるぶると震えさせていた。

 きょろきょろと辺りを見回す。

 「ここは……どこだ」

 街の中の、人通りの多い道のようだった。

 エンデレはそのど真ん中で、茫然と立ちすくんでいた。

 「邪魔だよ。何突っ立ってんだ」

 エンデレは肩を乱暴にどつかれ、よろよろと人ごみに揉まれながら道から外れて行った。

 道に並ぶ建物の間に入り込んで、建物の陰に座り込んだ。

 「頭がおかしくなりそうだ……」

 エンデレは壁にもたりかかった。

 喧騒に顔を向けて、道の人々を眺めた。しかし目に映る情報は頭の中に入っても処理されず、エンデレは疲れて何も考えられずにいた。

 「お腹が空いた……」

 エンデレは虚ろな目をしていた。

 道の人々から浮浪者を見る目でエンデレは見られた。しかしエンデレは何も考えられずに、気を失うように眠りについた。

 

 しばらくして、エンデレはごそごそと懐をまさぐられている感触で目が覚めた。

 うっすらと目を開けると、赤い髪の浮浪者が寝ていたエンデレの懐を漁っているようだった。つんとした匂いがその浮浪者からした。エンデレも似たような匂いをしていたのでお互い様だった。

 抵抗するのも面倒になって、エンデレはまた眼をうっすらと閉じた。

 もうどうにでもなれと言わんばかりにエンデレは身を全て委ねた。そもそもとられて困るものなど何も持っていない。

 道行く人々はエンデレ達を無視していた。浮浪者同士のじゃれあいと思ったのかもしれない。エンデレはそんなこともどうでもよかった。ただ、間近に聞こえる浮浪者の浅ましい呼吸音が少しだけ耳に障っていた。

 「ちょっと!」

 エンデレを漁っていた浮浪者がビクッと振り返った。そして、慌てて逃げて行った。その逃げ足はとても速かった。

 エンデレは、目を開かなかった。というよりは開くことができなかった。エンデレは空腹と脱水で体を全く動かせなくなっていた。

 慌てて人が近づいてくる気配がした。

 「……大丈夫?」

 大丈夫ではない。エンデレは、否定の言葉を発しようとしたが、喉が渇いてそれどころじゃなかった。

 「ほら、エンデレ?」

 ハッとエンデレは目を開いた。

 「しっかりしなさい。立てる?」

 視界がぼんやりとして、姿がぼやけていた。うっすらと、金色の髪を判別できた。

 「……駄目ね。しょうがないな」

 ぼんやりとしたその人影は、長い棒のようなものを振りかざして、何やら呪文のようなものを唱えた。

 すると、エンデレは浮いた。そのままふよふよと、人影の杖の指す方向へ移動した。

 「すぐ着くから、辛抱してね」

 人影が歩いて、エンデレもそれにふわふわと続いた。エンデレは雲の上にいるような気分になって気持ち良かった。

 ざわざわと道行く人々が遠巻きにそれらを見送った。

 「……エー……リ?」

 エンデレはぽつりと呟いた。

 「そうよ。多分、あんたの知ってるのより年取ってるけどね」

 エンデレは、何かを言おうと口を開いたが、途中で力尽きて気を失った。

 エーリは早足で家に急いだ。

 「……それにしても、まさか、こんなことになるなんて、思ってなかった……でも、まだ……」


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