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 エンデレは牢屋に戻った。

 「ややこしいことになってきたな……あれは本当なのか?」

 暗闇でエンデレは呟いた。

 こんなことなら、エーリの爆発魔法で飛んでった方がまだ簡単だったんじゃないか?

 エンデレは、あの大きな木の前で、一緒に木を登ろうと、エルに誘われた場面を反芻した。そして、憂鬱そうに重い溜息をついた。

 「一緒に登るとか登らないとか……どうしてこんなところで関わってくるんだよ。俺の気持ちなんて、どうでもいいだろ……大体、今までの移動でどうやって」

 「……エリンギ?」

 隣の部屋からおずおずと声をかけられた。

 「……おお。どうした」

 「エリンギ、いるんだね?」

 「いるよ」

 「ずっと声をかけても返事が無かった」

 心配そうな声に、エンデレはなんでもないように答えた。

 「ああ、寝てたかもしれない」

 「……また? 寝てばかりだね」

 「いや……」

 「……ねえ、大丈夫? どこか、具合悪かったり、するの……?」

 心細そうな子供に、エンデレは、上手い言い訳があるか考えた。

 「ご飯食べてなくて……寝て空腹を紛らわしているんだ」

 「……そういえば、エリンギのところにずっとご飯持ってかれてないね」

 「……ああ。だから、その内餓死すると思う。返事が無くなったら、放っておいてくれていいぞ」

 エンデレは自分の言い訳を上手いと思っていたが、子供は絶句していた。

 「……どうして、ご飯食べられないの?」

 「いや……」

 「だって、おかしいよそんなの……なんで……」

 「ああ、さて、なんでだろうな。まあ俺だと食費対効果も低いだろうし」

 「あ……」

 「ん?」

 子供はおそるおそるとエンデレに訊いた。

 「……もしかして。もしかして、子供のころからここに……?」

 「ああ?」

 「そうだよ……だから、大人なのにここにいるんじゃないの? あいつら、エリンギを持てあましてるんだ……」

 点と点が繋がったらしいが、エンデレには意味不明だった。

 「……いや、まあそんな感じ、うん。うん……実は、そうなんだ……そろそろ、奴らの目が冷たくなってきてな……」

 しかしエンデレはこれでいいやと思いきった。

 「ああ、そんなことって……」

 「買い手が、中々ね」

 「もう付かないと思うよ……」

 「ははは。なんのなんの、俺もテクニシャンだぞ?」

 「エリンギ……」

 エンデレは馬鹿らしくて心が辛くなったが、グッとこらえた。

 「……待ってて」

 「え?」

 隣の部屋から、壁を断続的に金属で叩く音がする。

 「おい。何を……」

 「……小さな穴だけでも空けば……私のご飯をあげられるでしょ?」

 「はあ!?」

 エンデレが慌てて制止しようとするが、子供はやめようとしなかった。

 ガツンガツンガツンと音がする。

 「いやいやいやいやいやいや。大丈夫だよ気持ちだけ貰うよ」

 「……エリンギが死んじゃったら……」

 ガツンガツンガツン。

 「……私は誰と話せばいいの?」

 ガツンガツンガツン。

 「大丈夫だって、本当のこというとな、実はな、ここにきのこが生えててな」

 「そんな訳ない!」

 「ダメだって……ダメだって……」

 しばらく壁をつつく音がしたが、やがて止んだ。

 「……ビクともしないや」

 「そうだよな、ああびっくりした」

 「ぐ、ふぐ……」

 「あの、本当に気持ちだけで嬉しいよ。ありがとう。ありがとうございます」

 「ぐ……」

 「……ごめんなさい」

 「……なんで、エリンギが謝るの」

 「いや……」

 「真面目に考えてよ……このままじゃ、エリンギ死んじゃうよ?」

 「うん……人はいずれ死んじゃうからね……」

 「真面目に考えて!」

 「はい……」

 「……どうしたら……うう……」

 途方に暮れたような声を聞いて、エンデレは気分が暗くなった。

 「なんで……」

 「……え?」

 「……いや、そうだよな」

 「エリンギ?」

 今まで無理矢理無視していたことが、エンデレの心に負荷をかけてきて、一層気分が暗澹としてきた。

 「……そうだよなあ。こんなとこに一人じゃ心細いよなあ」

 聞いてる人間の気分が悪くなるような声色でぼそぼそと小さく独り言を呟いた。

 「……ああ、嫌だ嫌だ。なんで、こんな……俺には関係ない……関係ない……」

 「……? 何て言ってるの?」

 「いや何でもない……」

 「……」

 「……ごめんなあ」

 「どうして謝るの?」

 「……悪い。また眠くなってきたから、寝る」

 「エリンギ……」

 「……」

 エンデレは膝に顔を深く埋めて、寝ようとした。

 しばらくご飯も水もとっていない。エンデレは、本当に飢えと喉の渇きを感じた。


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