プロローグ:ある国、ある貴族の事情
思いつきで書きました。
思い付きで編集しました。
後悔は、無い!
この世界には、2種類の人間がいると言われる。
魔力を持つ者と持たない者。これはこの時代、いや、この世界において明確に強者と弱者を表した言葉であった。
そしてこの国、グレイアン王国は、非常に強力な魔法使いたちを有する強国であった。それ故に、魔力を持たない者達を能無しと呼ぶ悪し気風習があり、特に身分が高い者によく見られた。
そして、その国のとある館にて、1人の男児が産まれた・・・・。
「オギャー、オギャー、オギャー」
「おお、ついに産まれたか!」
広く長い廊下にある1席の椅子に、1人の男が落ち着きなく座っていた。赤子の声が聞こえると、途端に立ち上がり先程とは違い嬉しいながらも、どこか決意に満ちた精悍な顔つきになっていた。
そして、ついに妻と子がいるであろうその部屋の扉が開けられ、中から産婆が出てきた。
「どうであった!」
「元気な男の子でございます。」
「そうか!して、妻の方は、、、」
「・・・残念ながら、、、」
「!!・・・そ、そうか、、、やはり無理があったか」
残念ながら母親は、普段から身体が弱く出産に耐え切れるほどの身体ではなかった。母親自身も分かっていたがやっと出来た2人の子供でありどうしても、産みたいと夫である男に頼み込んだのだ。
だが、いくら分かっていたとしても、その喪失感は余りにも大きかった。
「・・・あの、旦那様、、、」
「ああ、すまん。で、どうかしたか」
「非常に申し上げにくいのですが、御子息様は、、能無しでございます、、、」
「・・・何?今、なんと申した。」
「・・・能無しにございます。旦那様、、、」
「まさか、そんな、、、」
出産とともにこの世を去った妻が自身の命と引き換えに産んだ我が子が、魔力を持たない『能無し』であるとは微塵も思っていなかったこの男には、大きなショックを与えた。
「・・・一度、、一度だけ我が子に会わせてくれ、、、」
「こちらでございます。」
そう答えた産婆は、つい先ほど出てきた扉を再びくぐり部屋の中へと入って行った。男もその後を追い部屋に入ると、寝台の上に優しそうなきれいな顔立ちの女性が横になっていた。
「イザベラ、、、」
男は、イザベラと呼んだ女性に近寄りそっと頬に触れた。頬は、まだ温かくやわらかかった。寝ているだけだと言われても分からないだろう。いや、むしろそう言って貰いたかったが、触れた時に分かった、、、分かってしまった。彼女は、もう息をしていないと、死んでしまったのだと。
「・・・くっ」
「こちらでございます。旦那様」
産婆の差し出された手の中には、どこか母親の、イザベラの面影のある赤子が抱かれていた。
「・・・この子が、、、おお、優しそうな顔なんかイザベラにそっくりだ・・・・なぜ、なぜなんだ!なぜ、能無しとして生まれてきてしまった、、、我が子よ、、、」
男は、自身の子であるその赤子を大事に抱きその場に泣き崩れてしまった。我慢の限界だったのだ。
しばらくたち、落ち着いた男は我が子を抱えて立ち上がった。
「ガンダを呼べ・・・」
「はっ!」
男は、我が子を抱えたまま近くにいた執事に指示を出した。するとすぐに、いかにも武人と言った感じの男を連れて戻って来た。
「お呼びでしょうか?グランス様、、、」
「ああ、お前に大事な頼みがある、、、」
先ほどとは異なり、男・・・グランスは、落ち着き払った様子で目の前でかしずく騎士の男、ガンダに言った。
その男、ガンダは、自分の主であり古くからの友人であるグランスの声からなにかを決めた、覚悟した男の雰囲気を感じ取った。
「はっ!なんなりと、、、」
「お前にこの子を託したい、、、」
「!!・・・そ、それは、、、」
「この子は、魔力を持たない能無しだ・・・我が家に置いておくことはできん・・・この子のためにもな・・・」
「!!」
グランスは、この地の領主であり貴族であった。この国の貴族には珍しく、魔力を持たない者を見下したりしない者であったが、貴族には暗黙のルールがあり、貴族は力あるものでなくてはならないと言うものであった。このルールにのっとり、貴族は代々魔力持つ者のみでありもし、能無しが生まれた場合その母子ともに平民落ちにさせられていた。しかし、その実態はひどいものであり良くて平民落ち、悪くてスラムに捨てられた後、殺されるといったものであり、後者が大半をしめていた。
ガンダ自身も、この暗黙のルールは知っていた。しかし、いざとなっては、どうしようもないやるせなさが湧き上がりふいにグランスの顔を見た。その顔は、今まで見たことのないほどに感情の入れ混じった苦渋の表情で、ガンダは、なにも言うことが出来なかった。
「この子には、母親がもう居ない、、、そして私がこの子を育てることもできない。だからといって、私にはこの子をスラムに捨てさせることもできない・・・。」
「・・・」
「この子は、私と彼女が望みやっと産まれてきた子なのだ、、、」
「・・・」
「どうか、どうか頼むガンダ、、、」
「顔をあがてくれ、グランス、、、」
「ガンダ?」
「俺は、お前の部下である前にお前の友人じゃなかったのか?」
「ガンダ、、、」
「これは、部下としてではなく友人としておまえの頼みをきく」
「すまんガンダ、、、」
「ちがうだろ?」
「ああ、ありがとうガンダ。」
「それで、どこかあてはあるのか?」
ガンダは、グランスに対してこの子を育てるのに良い場所のあてがあるのか聞いた。
「ああ、ここから遠いが、南の島国・・・あの国なら」
「ああ、あの国か・・・」
「いつごろ立てばいい?」
「準備が出来たらすぐにでも、、、と言いたいが、明朝の一の鐘が鳴るころに南門に来てくれ」
「わかった」
二人は、言葉を交わした後部屋を出た。
翌朝のまだ朝日も顔を出さない時間、この街の南門に4人の姿があった。
「すまないな、お前にこのような面倒に巻き込んで」
「気にするな、いつもの事だ」
「それでは、私がいつも迷惑をかけてるみたいじゃないか」
「かけてるじゃないか、、、ぷっ、、」
「くっ、、、」
「「ははははは!!」
「あまり騒がれると、、、」
「ああ、、、そうだな、、」
深く外套を着こんでいるため分かりにくいが、ガンダとグランスとその付き人の二人であった。
「よろしく頼んだぞ。っと、言いたいが、お前は男だからその子に乳を与えることが出来んだろ」
「ん?父になる気だが?」
「ボケは、いらん。・・・でだ、この者も連れて行ってわくれんか?」
そう言い、グランスが合図をすると後ろに控えていた二人のうち一人が前に出てきて外套から顔を見せた。
「お、お前、、、」
「よろしくお願いいたします。ガンダ様」
そうして、頭を下げてきたのは、ガンダも良く知るメイドの女だった。というよりも、この二人は、昨日まで付き合っていた仲であった。
「なんで、お前がここに・・・」
「ん?どうしたんだガンダ?何か問題があったか?この者は、自らお前たちに付いて行きたいと願い出たんだが、、、お前が、じゃまだというなら・・・」
「い、いや。だが・・・」
「お願いします!私も連れて行ってください!あなたと離れたくないのです!」
「くくくっ・・・女にここまで言わせてダメだとは、言わんよな?」
「グランス、お前・・・」
「俺が、言える立場じゃないのは分かっているが、お前には幸せになって貰いたいと思っている」
「・・・」
「・・・まぁ、その、なんだぁ、、、息子の事をよろしく頼む、、、」
「・・・ああ、二人とも俺が幸せにしてみせる」
こうして、最後の言葉を交わしガンダは、二人を連れ南へと旅立った。
その後、グランスは、民や貴族など各方面に向けて妻の死と子の死産を伝え1年間の喪に服すのだった。
そして、数年後・・・
遥か南の島国<ジパン皇国>で、
ひとりの少年の神話が始まる。