ユカリさんの話
コトコトとお鍋が音を立てています。
ふひひひ、もう煮えた頃でしょうか。
じっくりと煮込むのがコツですよ。
コンコン……
さぁ、そろそろ食べましょうか。シチュー皿を持ってきましょう。
お魚の形をしたお皿ですよ。
トントン
何ですか、何なんですか。
こんな夜遅くに。
何事にも適切な時間というものがありますよ。
ドンドンドン!
もう。仕方ないですね。どんな無礼なやつでしょうか。
顔を見て差し上げます。ってあれ? ユカリさんじゃないですか。
ユカリさんは長身でスレンダーな女性の先輩なのです。
「お邪魔するよ」
ユカリさんはずっかずっかと部屋に上がり込みます。
うわぁ、男子の部屋には色々と準備というものがいるのですよ。
あぁ、その雑誌はいけません。このマンガも触っちゃダメです。
「何々? お前こんなのが好きなの?」
ああ、もう。神聖なボクの部屋で、そんな破廉恥な本を読まないでください。
確かにその本はボクのですけれど。
「なるほどねぇ……脚が好きなんだ」
そう言うとユカリさんはぴっちりとしたタイトジーンズで包まれた脚を、これ見よがしに組み替えるじゃありませんか。
いけません、なんて破廉恥なことを。前のように劣情を催してしまいます。
「まさかお前が私に劣情を催すとは思わなかったけどね」
そうです。そうでした。
3日前にも同じようにユカリさんの脚に劣情を催したボクは、そのままユカリさんを押し倒したのでした。
「こら、あまり物欲しそうな顔しない」
そういうとユカリさん、何やら持ってきた袋から怪しげな物品を取り出しました。
あれ、それは手枷とか足枷というやつではないですか。
使って欲しいんですか。なら遠慮なく。
「違う。違うから、座りなさい。これはね、幽霊を拘束する枷なんだって」
え、幽霊ですか。確かに数日前から家鳴りがしたり、体調が悪くなったりしています。
なるほど、幽霊の仕業だったのですね。ユカリさんが捕まえてくれるのでしょうか。
「お前ねぇ……あ、そうだ前にした話って覚えてる?」
おや、なんでしょうか。ユカリさんがボクと結婚してくれる話でしょうか。
記憶にありませんが、そんな話をしていたんですね、ボク達。
「してないよ。もしも幽霊に呪い殺されたらって話」
ええと、なんでしたっけ。
自慢じゃないですけど、ボクは人の話を聞き流すことには自信があるのです。
「ほら、仮に私が住んでいる家に幽霊が出て、そのまま私が呪い殺されたとするでしょ」
ははぁ、あまり恨みを買うのも考えものですね。
いや、睨まないでくださいよ。さあ、続けて。
「でも、呪い殺されたら私は化けて出てやって、呪い殺した幽霊をボコボコにするんだ。同じ土俵なら負けない」
思い出しましたよ。幽霊よりこの人が怖いなと思ったのでした。脚が綺麗なのにねぇ。
でも確かに幽霊同士なら、殴り合いもできそうです。
「でも、逆に考えると、幽霊から人間に対しては呪うくらいしかできないんだね」
そりゃあそうです。幽霊は実体を持たない。ですから生身の人間に触ることができないのです。
すり抜けてしまいますよ。オカルトの常識です。ほら、ユカリさんに触れない。
「だからさぁ、お前を呪い殺して、私と同じ幽霊になったら、今度はお前をこの枷で拘束して……絶対に……必ず……同じ目に……お前を」
あれあれ、ユカリさんの目が真っ赤に光って、物凄い形相で憎々しげにボクを睨む。
押し入れの中で、まだ食べ残してあるユカリさんの首と同じ表情で。
ラノベ執筆の気分転換に書きました。
フィクションですヨ。
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