困った仲間達:1
しかし、と思う。きっと駿河あたりは自分達より早く来ていて、所轄の刑事と一緒に聞き込みに回っているに違いない。
その時、
「実は俺、死体って見たことないんだ」
「見ないに越したことないですよ、あんなの」
聞き覚えのある声が聞こえた。友永と日下部だ。
何と言って叱ろうか。
こういう時は上司よりも早く来て周辺の聞き込みをするなり、被害者に関する情報を集めて報告するのが普通だろうが。
「おや、班長さん。お早いですね」友永がいつもの調子で言う。
「お前らが遅すぎるんだ。何してた? 今まで」
「何って、こいつがキャバクラに行ったことがないっていうもんですからね、昨日連れて行ってやったんですよ。そしたらすっかり盛り上がっちまって、朝まで飲んでました」
およそ警察官にあるまじき行動を、平気でベラベラと話す友永の神経が信じられない。
日下部の方も悪いと思っていないのか、平然とした顔をしている。
何か言う気も失せた。友永が訊ねる。
「で、何かわかったんですか?」
「……それは、お前達が調べて俺に報告することだろう?」
すると彼は肩を竦めて、
「すいませんね、刑事の流儀ってやつを知らないもんですから」
イラッとした。が、ここはなんとか我慢する。
「彰彦、日下部を連れて聞き込みに行って来い。お前が刑事の流儀ってやつを教えてやるといい。友永、お前は俺と一緒に来い」
「えー、なんで和泉なんかと?! だいたい、俺だって新米刑事なんかじゃ……!!」
日下部が抗議の声を上げた。
「お前が本当に刑事の仕事をわかっているのかどうか疑わしいからだ」
「じゃ、行きましょうか。日下部巡査長殿」
怒りで顔を真っ赤にしている同僚の背中を押して、和泉は被害者の部屋を出た。
行くぞ、と聡介は友永に短く声をかけて外に出た。
「ところで、あの坊主どもはどうしたんです?」
「坊主?」
「人造人間と石油王子ですよ」
誰のことだかすぐにピンときた。
人造人間は駿河のことで、石油王子とは三枝のことだろう。
三枝は確かに石油産出国である中東系の顔立ちをしている。
20代中盤であろう彼らを坊主と呼ぶ当たり、友永自身は40から50代ぐらいだろうか。
そんなことはどうでもいい。
「駿河はきっと、もう所轄の刑事か機捜の刑事と一緒に組んで聞き込みに回っているんだろう。三枝は……考えたくもないが、たぶん遅れてくる」
聡介の読みは見事に当たった。
朝早い時間で、周辺の聞き込みに回ってこれといった情報も得られないまま、一旦現場に戻ったところ、駿河は現場を管轄する佐伯南署刑事課の石原警部補と一緒に何か話しながらドアの前に立っていた。
もっとも彼は石原警部補が何か話しているのを、無言で聞いているだけだが。
「ご苦労さん、早かったな」
聡介が駿河に声をかけると、昨夜は宿直だったので、とだけ短い返答があった。
それ以上会話を続ける術も持たず、どうしようかと一瞬悩んだ時、
「高岡警部殿はどう思いますか?」
石原警部補がまるで挑戦するように問いかけてきた。