登場人物紹介のような……:3
ふと聡介は、和泉を見た。
彼は刑事としての才能はあるし、過去に実績も多く挙げている。
しかし時々、気に入らなければ幹部に向かっても歯に衣着せぬ物言いをするし、あの独特のキャラは上司のタイプによって気に入られるかそうでないかがくっきりと別れる。
ふと、和泉と目が合った。
彼はにこっと微笑んで手を振ってきた。
聡介はさらっとそれを無視して、今度は駿河葵の方を見た。
彼はつい先日まで廿日市南署の刑事課にいたそうだ。
廿日市市と言えば、世界遺産である厳島神社の宮島を擁する土地柄である。近年、国内外からの観光客の増加により犯罪率も増えた。
彼は殺人や強盗を扱う強行犯係にいたという。
所轄にいた頃もきっと無言で真面目に働いていたに違いない。
そんな彼がどうして、こんな問題警官の群れの中に紛れ込まされたのか、少しばかり気の毒に思う。
普通は所轄の刑事課から本庁捜査1課への異動なんて栄転のようだが、彼の場合は仲間がこれでは、無条件に喜べる話でもないに違いない。
そこは班長である自分がうまくフォローしなければならないだろうな……。
酒が飲めれば仕事上がりに一杯どうだ、とか言えるのだが、聡介はほとんどといっていいほどアルコールが飲めない。
美味しいスイーツの店なら幾つか知っているが。仕事帰りに中年と若い男性が二人で、紅茶を飲みながらケーキという光景もぞっとしない。
それに駿河はまだ、そこまで心を開いてくれているようにも思えない。
今どきの若者は仕事とプライベートをきっちりと分けていて、職場を一旦離れたら、一切仕事のことは口にもしないし、考えもしないそうだ。どう接して行けばいいものか少し悩む。
独特の濃いキャラが集まったこのメンバーの中で、どうやら彼だけが唯一まともなようなので、大切にしたいのだが。
ふと急に、和泉が傍に近寄ってきた。
なんだ? と聡介が顔を上げると、
「聡さん、家の鍵を貸してください」
「家の鍵……?」
「合い鍵を作るんですよ」
ああそうか、と聡介は自宅の鍵を取り出しかけた。
「……あんたら、同棲してるのか?」
友永が目を丸くして口を挟んできた。
「変な言い方をしないでくれ。こいつが嫁さんに逃げられて宿なしになったから、うちで居候させてやっているだけだ」
しかしまるで人の話を聞いていないようで、
「仲が良いのは知ってたけど、まさか一緒に暮らす間柄だとはな」ニヤニヤ笑いながら友永は言った。「おい、いつからだ?」
「昨夜が初夜でーす」
「やめろ」
「……お前、もしかしてそれが原因で奥さんに逃げられたんじゃ……」
日下部が化け物でも見るような眼で和泉を見て言った。
「そうかもしれません」さらりと和泉は答える。
「へぇ、班長と和泉先輩はそんなステディな間柄だったんだぁ」
ひゅー、と三枝が口笛を鳴らす。
勝手にしろ。聡介は何も言わないことにした。
何か言っても無駄だ。
相変わらず駿河だけは、黙々と自分の仕事に取り組んでいる。