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登場人物紹介のような……:1

 犯人が逮捕されれば事件は確かに解決だが、刑事の仕事はそこで終わりではない。

 膨大な書類仕事が待っている。

 裁判所に提出する資料をまとめる必要があるのだ。

 最近はすべてパソコンで書類を作成するのだが、電子機器全般の操作が苦手な聡介には苦痛でしかない。


 近頃やっと文字を入力することに慣れてきたが、少しでもエラーメッセージが出てくるとあたふたしてしまう。

 ついいましがたも何やら訊ねられ、はいを押していいのかいいえを押すべきなのか迷っている。

 目だけで和泉を探したが席にいない。

 部下は他にもいるが、皆それぞれ自分の仕事に忙しいだろうし、何よりもパソコンのことであれこれ尋ねるのは少し恥ずかしい。


「班長、報告書ができましたのでご確認いただけますか?」

 そう言って聡介の目の前に立ったのは部下の中で一番若い駿河葵(するがあおい)巡査部長だ。

 この春の人事異動で捜査1課に配属され、聡介の班に組み込まれた。

 整った顔立ちをしており、これまた県警内で他に並ぶ者がいないと噂されるイケメンの和泉と並んでいると、女性が黄色い声で騒ぎそうだ。

 しかし、彼はそんな魅力的な外見の持つ威力をあまり発揮できていないと言える。

 それというのもとにかく無表情だからだ。

 その上、口数が少ない。

 無駄口はほとんど叩かず、必要最低限の言葉しか口にしない。


 口の悪いまわりの人間達は駿河のことを『人造人間』などと呼んでいる。しかし聡介も時折、本当に彼はサイボーグなのではないだろうかと思ってしまう。

 しかしそんなことは仕事上、まったく支障をきたすものではない。

 実際彼は求められた以上の仕事をする。

 元々頭が切れることに加えて、ずいぶんな努力家だと評価している。

「わかった、ところで……」

 聡介は駿河を手招きし、自分のモニターを見せた。

「さっきから何度か謎のメッセージが出るんだが、これは『はい』でいいのか?」

 駿河は無言でモニターに映るメッセージを読むと、はい、とだけ答えた。

 聡介がすまないな、と苦笑しながら言うと彼は、いいえ、とだけ返事をして自分の席に戻った。

 愛想の欠片もないと言ってしまえばそうだが、そういう人間だと思えばそれなりの付き合い方をすればいい。

 

 その時、捜査1課の部屋の入口に1人の制服姿の婦人警官があらわれた。

「和泉警部補、いらっしゃいますか? 荷物が届いていますが……」

「あ、届いたんだ? ありがとう」

 どこに行っていたのか、婦人警官の後ろから和泉が姿を見せた。

「聡さん、ちょっと手伝ってください」

「……なんだ?」

「僕の荷物、向こうにみんな持って行かれたからどうしようかと思ってたら、今日ここに宅配便で届いたんですよ。とりあえず駐車場に持って行って車に積みます」

 どうやら、別れた奥さんから和泉の分の荷物が職場に送られて来たらしい。

 聡介はやれやれ、と溜め息をつきながら立ち上がる。


「自分が手伝います」

 それだけ言って部屋を出て行ったのは駿河だった。

「出来た部下をお持ちだねぇ、班長さんよ」

 聡介に向かってそう話しかけたのは、友永修吾(ともながしゅうご)巡査部長だった。

 彼は緑茶を啜りながら部屋の出口を見つめた。


 友永は警察に入ってからずっと生活安全課少年係で不良少年や少女を相手にしてきたが、この春の人事異動でいきなり捜査1課強行犯係に抜擢された。

 本人は特に刑事課を希望した訳ではないそうだ。


 彼について悪い評判は聞かないが、いい評判も聞かない。

 聡介は一緒に仕事をしたことがないからわからない。

 ただ、まだそう長くない付き合いの中で、少しだけやりづらい相手だと感じたことはある。


 年齢はまったく不詳だ。髪に白いものがちらほら混じっている。

 どこか腹に一物ありそうで油断がならない。

 少年係にいた頃『昼行燈』というあだ名をつけられていたらしいが、確かに真面目に仕事をしているようには見えない。


 いつもだらしない格好で椅子に座り、スポーツ新聞を広げ、何を聞いているのかはわからないが片耳にいつもイヤホンを差し込んでいる。

 聡介に向かって一応は敬語で話すが、どこかおちょくっているようにも聞こえてならない。

 彼はもしかしたら、上司全体に対して不信感を抱いているのではないか。そう思ったことがある。


 ところで荷物の量はたいしたことなかったようで、和泉は駿河と共にわりとすぐ捜査1課の部屋に戻ってきた。

「ありがとね、葵ちゃん」

 和泉が声をかけると人造人間は軽く頷いただけで自席に着席する。

 そんな呼び方をする方もする方だが、黙認する方もする方だ。

 聡介は少し信じ難いものを見る気分がした。


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