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本日の『お前が言うな』

「……彼は、川辺さんにだいぶ熱を上げていたようですね。さんざん賛辞を聞かされましたよ」

 すると何故か富樫の表情が曇った。

「ええ、そうみたいですね」

「富樫さんからご覧になっていかがでしたか? いわゆるストーカーと呼べるような行為を目撃したり、また報告があったりだとか……」

「ありませんでしたよ、そんなこと。小野寺さんは理屈の通らない人だし、意味が解らないですが、口先だけで意外と小心者なんです。川辺さんに実際のところ、手は出していないと思いますよ」

「随分高価なプレゼントを送ったりしたこともあるそうですが?」

「……そりゃあね、ここで働いている人間にとっては高価な贈り物をしたことはあるかもしれませんよ。ここの時給を聞いたらなるほどって思うかもしれません。ですが少なくとも、ブランド物のバッグだとか、置き場に困る様な家具だとかをもらったという話は聞いていませんね」

 

 煙草、いいですか? と富樫は胸ポケットから煙草を取り出す。

 カチカチと忙しなくライターを鳴らし、紫煙をくゆらせる。

「でも、わからないですよね。彼はまったく理論も常識も通じない、自己中心的な人間ですから。彼ももう30ですよ。結婚を意識する年齢じゃないですか。川辺さんが当然自分と……って思っていたのに、うまくいかなくてカッとしたかもしれません。ですが、どうせまともに答えてないと思いますから、代わりにお答えします。あの日、小野寺さんは遅番でした。いつになく受注の電話が殺到して、電話を受けたらおしまいじゃないんですよ。その後のいろいろな事後処理がありましてね。すべての仕事を終えてここを出たのは日付が変わってからですよ。ですから彼にはアリバイがあります。僕もその場にいましたしね」

 一気にそれだけしゃべって、苦労人と思われるスーパーバイザーは息を吐き出した。


 正直あの男にアリバイがあろうがなかろうがどうでもいい。

「変な部下を持つと大変ですね」

 和泉が心からの同情を示してそう口にした時、何故か駿河の視線を感じた。


「そう言う訳ですから、私もアリバイはあります」富樫は言った。

 ご協力ありがとうございました、と刑事達は席を立った。

「……葵ちゃん、どう思った?」

 コールセンターの入っているビルを出たところで、和泉は相棒に訊ねた。

 駿河は一瞬間を置いてから、

「自分の感触では、あの小野寺という男はシロです」

「やっぱりそう思う? 論理が破綻しているから感情的な人間かって言ったら、そうでもないみたいだよね」

 聡介がこの場にいたとしても、やはり小野寺はシロだという結論に至っただろう。


 あの人は人を殺すような人間じゃない、という言葉をよく聞くが、じゃあどんな人間なら人を殺すんだ? と言ったら、それはもちろんタイプは様々だが……少なくとも直感であの小野寺という男は、人を殺すタイプではないと和泉は思う。


 むしろ他人に殺意を抱かせるタイプだ。


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