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弟ができた気分です。

 会議室には、聞き込みを終えた捜査員達がぞくぞくと戻って来る。

 和泉は聡介の姿を探した。

 すぐに見つけることができたが、少なからずムッとした。

 本来自分のいるべき場所を乗っ取ってしまった因幡の白うさぎが、昼間のような尖った空気を消して、聡介と何やら一生懸命話しているからだ。

 

 その姿は例えるなら若い陶芸家が、高名な師匠に手ほどきを受けているようにも見えた。

 

 大概の刑事達は会議までに自分達で入手した情報をコンビで話し合い、それぞれの意見を出し合う。 

 和泉は今までずっと聡介とそうしてきた。

 が、相手が駿河だとその気になれないというのはただの我がままだし、随分と失礼な話だ。

 わかってはいるのだけど……。

 

 でも、駿河の方も一言も何も言わない。

 元々無駄口を叩くタイプではないからか、それとも何も考えていないのか。

「聡さん」

 和泉は聡介に声をかけた。

 気付いてくれて軽く右手をあげてくれたが、彼は稲葉結衣の話に耳を傾けていて、それ以上のリアクションをしてくれない。

「聡さんの分も着替え、取ってきましたけど?」

「ああ、すまん」

 まったく子供じみた嫉妬心だということはよくわかっている。

 

 が、自分が事件の話をしたいのは父親である高岡警部なのだ。

 

 何か悪戯でもしかけようかと思っていたその時、背後から声が聞こえた。

「お前さん、いつまでも親離れできんのだな。ま、親の方もいっこうに子離れできてないみたいだけど」

 元少年課の友永だ。一応、仕事をしてきたのだろうか。

 そういえば彼は誰とコンビを組んでいだのだっけ? 和泉はムッとしたのを顔に出さないよう努めて手を引っ込めた。

「親子じゃなくて、恋人同士でしょ?」そうだ、三枝だ。

「どっちにしろ気味が悪いな」

 余計な御世話だ。


 それにしても、意外と友永と三枝のコンビはうまくやっているように見える。

 これで聡介も少し安心するに違いない。

 ま、僕にとってはどうでもいいことだけど。

 ようやく白うさぎとの話に区切りをつけ、聡介が自分の方を向いてくれた。

「なぁ、彰彦」

「あのね、聡さん……」

「何かあったのか?」

「……はい?」

 

 父の視線は息子を通り越して、どこか遠くを見ていた。

「駿河の様子が少しおかしい。いつになく沈んでるように見える」

 そうなの? 自分にはまったくいつも通りにしか見えないが。


 人造人間と呼ばれる巡査部長は、会議室の真ん中にある椅子に腰かけて、捜査資料に目を通している。その横顔からは何も読み取れない。

 ふと、さっきのマンションでのことを思い出した。

「そういえば……何か、探している人によく似た人を見かけたとかなんとか」

「探している人?」

「迷子の子猫かもしれません」

 聡介は和泉の傍を通り抜け、座っている駿河に近付いていく。

 ポンと肩に触れて何か声をかけている。

 二人の遣り取りは聞こえないが想像はつく。

 

 どうかしたのか? 何があったんだ。

 いえ、何でもありません。


「あの、和泉警部補」

 昼間とは打って変わって、すっかり毒気の抜かれた稲葉結衣が声をかけてきた。少し気まずそうに、

「今まではその、失礼しました」と、頭を下げる。

 何があったのかは容易に想像ができる。聡介に何か言われたのだろう。

「別に」

 和泉は机の端に腰を下ろし、脚を組んだ。彼女は言う。

「私、今後は高岡警部について行って一生懸命、刑事の仕事を学びます!」

「だったら捜査1課に来ないとね。この捜査本部が解散したらたぶん、もう会えないよ」

「もちろんそのつもりです!絶対に私も将来は捜査1課に行きますから!!」

「せいぜい頑張ってよ」

 欠伸をしながらそう応じると、やはり勝気な本質が表に出てきた。結衣はプンプンと怒りをあわらにしながら離れた場所の椅子に腰かけた。

 

 ちらりと和泉が横目で聡介の姿を追うと、彼は駿河とまだ何やら話していた。

 聞き込みの成果なら僕に聞けばいいじゃないか。

 

 文句を言おうと立ち上がりかけた時、管理官が入室した。会議が始まる。

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