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泣きごと

「どうしたんだ?」

『いいから早く!!』

 訳がわからないが、とりあえず捜査本部に戻ることにした。

 会議室に入ると、

「聡さん!!」

 和泉は何を思ったか、いきなり聡介に抱きついてきた。


「僕、もう嫌です!! この子と組まされるぐらいなら、刑事やめます!!」

 この子というのは、女性刑事である稲葉結衣巡査のことだろう。

「落ち着け、いったい何があった?」

「だってこの子、手順も何もないんですよ?! 思うままに突っ走ってやりたい放題、ただでさえ一般市民は警察に対していいイメージがないのに、この調子じゃもっと県警の評判が落ちちゃいますよ!!」

「私は何も間違ったことはしていません!! あんな手ぬるいやり方で、事件が解決するとは思えません!!」


 何があったんだ、いったい……。


「彼女、警察手帳を水戸黄門の印籠か何かだと思ってるんですよ?! 業務中だから部屋の中に入るなって言われてるのに、どんどん被害者の勤務先の運用室に入り込んで、片っ端から事情聴取始めて……さんざんいろんな人から文句言われて、僕がどれだけ頭を下げたと思ってるんですか?!」

 あちゃー……聡介は両手で顔を覆った。

「とにかく、僕はもう面倒見切れません!! 僕の相棒は聡さんだけです」

 意外にごつい身体の男に抱き付かれても嬉しくもなんともない。


 が、あの和泉が音を上げるとは、なかなかの大人物なのかもしれない。

 聡介はちらりと若手の女性刑事を見た。

 まったく悪びれた様子もない。自分のやり方、自分に絶大な自信を持っているようだ。

 

 刑事課に入れるというのは確かに、男女問わず選ばれた人物だと言っていい。ただでさえ倍率の高い県警に就職した上、外から見れば花形とも言える刑事課に勤務出来たら、鼻が高くなるもの頷ける。聡介自身も若い頃はそうだった。

 が、そんなちっぽけな自尊心が打ち砕かれたのはすぐのことだったけど。


 聡介はこの若手の女性刑事、稲葉結衣巡査に興味を持った。佐伯南署の永井刑事課長は彼女を苦手としているようだが。

「わかった」

 聡介は和泉の身体を引き剥がし、それから言った。

「稲葉巡査、君はこれから俺と組んでもらう。彰彦、お前は駿河と組め」

 何を言われたのか理解できない、和泉はそんな表情を見せた。

「えっと……」

「聞こえなかったのか? お前の相棒は俺じゃなくて、駿河葵巡査部長だ。いいな」

「嫌ですよ、僕、聡さんとじゃなきゃ絶対嫌です!!」

 再び抱きついてこようとする息子を軽くかわし、聡介は女性刑事の方を見た。

「すまないな、こいつの面倒を見てくれるか?」

 聡介は駿河に向かって言った。人造人間と呼ばれる若い刑事は黙って頷く。


 それから、

「そういう訳だから、今後は俺と行動を共にしてもらう。一応こっちは捜査1課の警部だからな、指示には従ってもらう」

 わざとそう言ってみせると、結衣は唇を結んだまま返事をしなかった。

「……返事は?」

 催促するとしばらくして、仕方ないと言った様子ではいと答えた。

「じゃあ、今まで聞き込んできた結果を報告してみろ」

 聡介は手近にあった椅子を引き寄せて腰を下ろして足を組み、結衣を見上げた。

 若い女性警官は少し考えた後、時々つかえながらも、頭の中で懸命に言葉を組み立てて一生懸命に報告した。

「なるほど、コールセンターの上司か……」

「裏を取ろうと他の従業員に話を聞こうとしたのですが、あの警部補さんが邪魔をしたんです!」

 結衣は憎らしげに和泉を睨みつけ、そう報告を締め括った。

 

 かの和泉警部補はふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向く。

「向こうは仕事中だし、個人情報を扱っているところだから部外者の侵入はお断りだって言ってるのに、どんどん中に入って行って、そりゃもう戦時中の憲兵ごとくですよ」

 肩を竦めて和泉は言う。結衣はいちいちその台詞に反応して、キッと彼の方を向く。

「被害者と特に親しくしていた女性がいるって聞いたから、仕事が終わった頃に外で話を聞こうとしていたのに……このうさこちゃんのおかげで台無しですよ」

「うさこちゃん?」

「だってイナバでしょ? イナバと言えば白うさぎ。だからうさこちゃん」

「漢字が違います!」

「そんなことはどうでもいい!!」

 思わず聡介は大きな声を出してしまった。このコンビは間違いだったようだ。

「とにかく彰彦、今後お前は駿河と組んで行動しろ。いいな?」

 和泉は不満げな表情を見せた。それを見た結衣がクスっと笑う。

「君は、刑事の仕事を一から学び直す必要があるな」

 会議までにはまだ時間がある。

「行くぞ」

「どこへです?」

 聡介はその質問に答えず、黙ったまま車のキーを彼女に渡す。


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