若気の至り
「戻りました」いつも通りの口調で会議室に入ってきた彼の姿は、それこそ病院に行った方がいいのではないか、と思うほどボロボロだった。
「お前、怪我はないのか?!」
「……平気です、怪我はありません。服が汚れただけですから」
信じられない。
「念の為だ、病院に行って精密検査を受けてこい」
素直に頷くとは思えなかったが、聡介は言った。
案の定、
「何でもありませんから」
「いいから行って来い。捜査に加わりたいなら、医者の診断書を提出しろ。いいな? これは命令だ」
微かだが駿河の表情が動いた気がした。
が、相変わらずうんとは言わない。
聡介は若い巡査部長の肩を抱くと、無理矢理部屋を出た。
「何を……」
「1人じゃ怖くて病院に行けないんだろう? 俺がついていってやる」
若い頃の和泉にそっくりだ。
妙に意地を張って強がって、誰よりも冷静沈着な自分を演じようとする。聡介はついそんな彼のことを可愛いと思ってしまった。
馴染みの病院に連れて行き、顔見知りの整形外科に駿河を診せた。
「たいしたことはない、擦り傷程度じゃ」
今年還暦を迎えるという整形外科医はそう言った。
それみたことか、と言う表情でも見せるのかと思いきや、駿河はやはり無言で無表情を装っている。
「では、自分は捜査に戻ります」
脱いだ上着に袖を通し、駿河は病室を出た。
「待て、単独行動はダメだ。俺が一緒に行く」
聡介も急いで後を追いかける。
「ですが、班長……」
「俺は電話の前に座ってじっとしているのなんて耐えられない。外に出て自分の足で歩き回って聞き込んで、自分で拾った情報で推理したい。自分の感覚を大切にしたいんだ」
駿河は何も言わなかった。
が、少しだけ笑ったような気がした。




