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刑事の勘

 夜が遅いのは何も問題ない。

 和泉は全員分まとめて支払いをしようとする富樫を止めてから、自分達の飲み物代はテーブルの上に置いた。

 富樫が完全に店を出て行ったのを確認して、和泉は手を離した。

「……何するんですか?!」

「あのね……」

「被害者の話をする時の、あの男性の表情を見ましたか? あれは単なる職場の上司と部下じゃありませんでしたよ!」


 確かに、結衣の言っていることは間違っていない。

 和泉もそのことには気付いていた。特に、一緒に顧客の家まで謝罪訪問した時の話をしているくだりでは強くそう感じた。

「これは勘ですけど、あの富樫って男はかなりニオいます」

「勘って、女の勘? 彼、もしかして浮気してるんじゃないかしら、的な」

 結衣が大きな声を出しかけたので、和泉はしーっと人差し指を唇に当てた。

 その仕草に毒気を抜かれたのか、彼女は声を抑えて、

「……刑事の勘です……」と言った。

 和泉は思わず鼻で笑ってしまった。

 キッ、と睨みつけられるが意に介さない。

「その台詞を口にするのは40年早いよ」

 本人もそうだと思ったのか、結衣は少し気まずそうな顔で眼を逸らす。

「僕が信頼するのは、聡さんの勘だけだ」



 心配で仕方ない。

 よりによってコンビの相方があの和泉だとは。

 永井課長は新米女性刑事である稲葉結衣巡査を、どちらかというと疎んじている様子だった。

 今どき流行らない男尊女卑思想を固く守っているのだろうか。


 だから、和泉のような変人と組ませて、彼女の方が捜査から降りると言い出すのを待っているのだ。

 聡介にはまったくそういう考え方はない。

 女性であれば女性にしかわからない、男には気付けないこともある。

 それに彼女には、仕事に対する熱心さが感じられた。

 きっと経験を積めばいい刑事になる。


 その時本部の電話ではなく、聡介の携帯電話が鳴りだした。駿河からだ。

『班長、ご報告があります』

 電話を通すとただでさえ無機質な声がいっそう、自動音声が話しているように聞こえてしまう。

「どうしたんだ?」

『自分と組んでいた佐伯南署の戸川巡査部長ですが……』

 駿河の報告によればこういうことだ。

 二人は被害者の所属していたタレント事務所に出向いて事情聴取を行った帰り、たまたまひったくりの現場に出くわした。

 足に自信のある若い二人は犯人を追いかけて走ったが、戸川巡査部長の方が向かいから走ってきた軽自動車と接触し、転倒したのだという。

「それで、怪我の程度は?!」

『本人はかすり傷だと言っていましたが、自分が見る限り、脚の骨が折れています』

 重症ではないか。

『当分捜査への参加は不可と考えられます。班長、ご指示を』


 コンビを組んでいた刑事が眼の前で怪我をしたというのに、なぜこうも冷静でいられるのだろう? 聡介はそのことに驚いた。

「……いったん、本部に戻って来い」

 承知しました、と短い返事があり、電話は切れた。

 ほどなくして駿河は捜査本部に戻ってきた。


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