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因幡の白うさぎ:2

 警察組織に限らず今まで男性ばかりの職場だったところへ、最近女性が入って来るようになった。

 刑事課もまた然り、だ。

 とはいうものの男ばかりの職場へ女性が1人入るのはかなり気を遣うものだろう。

 まして刑事達は、女性をどう扱っていいのかよく知らない野暮が多い。

 男ばかりの集団の中では、酒の肴に下品な話題で盛り上がったりもできるが、女性が1人いるだけでそうもいかない。和泉もどっちかというと時々聡介に叱られるぐらい、その手の話は嫌いじゃない、というよりむしろ好きな方かもしれない。

 父親の高岡聡介という人は、下世話な冗談をひどく嫌う。


 だったらいっそのこと聡介が彼女を組めば良かったんじゃないか。と思ったが、それはそれでおもしろくない。

 名探偵高岡聡介警部の相棒は和泉彰彦警部補しかありえない。と、自負している。

 まぁ、いつも通り適当にあしらおう。

 そのうち向こうの方が嫌になって相方を変えてくれと言い出すに違いない。

 黙り込んだまま真っ直ぐに正面だけを見てハンドルを握る女性刑事の横顔をちらりと見て、和泉はそう思った。


 捜査本部が立ち上がった翌日の午前中。

 和泉は稲葉結衣と共に被害者が勤めていたコールセンターの方に聞き込みへ行くよう命じられていたので、署には顔を出さずに直接そこへ向かった。

 ケーブルテレビの事務局かスタジオが良かったのに。

 まぁ、いずれ必要があればそちらへ出向くことになるだろう。


 事件は今朝早い時刻にマスコミへ発表された。被害者も地元では少しは名の知られたタレントだったようで、やはり地元の新聞社が大きく紙面を割いていた。

 被害者の川辺都が勤めていたコールセンターは、広島市内中心部のオフィスビルが立ち並ぶ一角にあった。

 いろいろな会社が入居する雑居ビルといったところだろうか、首から社員証をぶら下げたスーツ姿のサラリーマン、カジュアルな格好をした若い男性など、あらゆる人物達とすれ違った。


 昨今、個人情報を保護するという観点からコールセンターのような大量の顧客情報を扱う場所では、社員でなければ業務室に出入りできないと聞いた。

 そこで和泉は電話で被害者の直属の上司を呼び出し、1階のフロアで会った。

「どうも、お待たせしまして」

 ペコペコと頭を下げながらやってきたのは、おそらく30代前半ぐらいの男性だ。

 スーツにネクタイという姿で、コールセンターは基本的にオフィスカジュアル可能な職場が多いと聞いたが、管理職にある人間はそうもいかないのだろうか。

「富樫と申します」

 差し出された名刺には『受注サービスセンタースーパーバイザー』の肩書があり、フルネームで富樫公一と記載があった。

 物腰は柔らかく、腰の低い印象を受ける。

 が、恐らく予想はしていたであろう刑事達の訪問を歓迎したくない雰囲気も見受けられる。


「ここでは他の社員の眼もありますので……」

 そういう訳で富樫は和泉達を連れて、同じビルの別棟1階にあるコーヒーショップへ連れて行った。

「川辺都さんのことですが、ご存知ですね?」

 和泉が口火を切ると、富樫はポケットからハンカチを取り出して額の汗を拭きながら、

「はい、今朝ニュースで見て……驚きました」

「勤務態度はどうでしたか?無断欠勤や遅刻などは」

「ありませんでした。それはもちろん、副業……いや、こっちが副業なのかな、タレント活動をしていたので、前の日になって急に明日休む、と言い出すこともしばしばでしたよ。こっちは頭数を揃える為のシフト組みで、毎回頭を抱えてるっていうのに」

 思わぬ仕事の愚痴が出た。本人もそれに気付いたのか、

「すみません。川辺さんのことでしたよね?彼女、確かに休みは多かったですが、無断で休むことはありませんでした。ちょうど遺体が発見された日は午後からのシフトが入っていたんですが……」

「その日は時間になっても姿をあらわさなかった、とそういうことですね?」

 結衣が口を挟んだ。

 富樫はそうです、と答えてから生クリームの浮かんだココアを一口飲んだ。


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