天国と地獄2
正直に白状してしまうとすると、俺は悪魔少女が床を通り抜けて出現したことが何かの見間違いだなんて風には全く思っていなかった。そればかりか、あの二人が死神と悪魔であることを大体七十パーセントくらいは信じていたことを、確信している。
俺は自分の目で見たことは信じるヤツなのだ、自分くらいは自分を信じてやらないと自分が可哀そうだろ? どうせこんな話誰も信じてくれないのだろうし。
けれど全く俺が魔王だと言うのは――そして記憶障害になっているというのは流石に嘘にしても嘘らし過ぎると言うか、馬鹿らし過ぎると言うか、一笑に付すと言うか、荒唐無稽にもほどがあるってもので――。たとえ自分だとしても信じられない。笑っちゃうね。
いや、俺だって信じたいのは山々なのだ。
だってそれは十数年間夢にまで見た非日常だろ? 主人公だけの秘められた過去――、いやはや全く口にするだけでぞくぞくする。
それでも――、だ。
そうはいっても――しかし、俺は未だ狼少年に騙され続けられた村人の気分なのである。エイプリルフールのニュースサイト閲覧者の気分なのである。
十数年間夢にまで見てきたのと同じ分だけ、十数年間待ち焦がれていたのと同じ時間だけ、現実に裏切られてきたのだ。
そして、くだらなくて、つまらなくて、退屈な――けれどだらだらと長い現実にようやく諦めが付いたと言うのに、折り合いを付けられたと言うのに、いまさら急に非日常的におもしろそうになってきて、一体なんだって言うんだ?
残念ながら、俺はもうプレゼントをもらって無邪気に喜んでいるだけのガキではなくなってしまった。プレゼントをもらえば、お返しに悩んだり、あるいはなにやら好意でもあるのかと邪推したり――つまり純真なんてものとは程遠くなってしまったのさ。
嫌なことにね。
嫌なヤツになったものさ。
だから、素直に喜べない。
素直に受け入れられない。
とんでもない自家撞着家だなほんと。誰か特効薬でも作ってほしいものだが――、まあきっとそんなものは治るもんじゃあないだろう。積み重ねた年月はどう足掻いたところであるいは足掻かなかったところで、消え失せることなんて有り得ないね。
「……やれやれ」
別にわざとらしく感傷に浸ってみたわけでもないのだが何だかそんな気分になって、俺は日常生活ではまず使わないそんな言葉をなんとはなしに口にしてみた。さながら、一つ年下の主人公たちのように。