高校三回目の春を迎えた日、俺はあの主人公たちよりも一つ年上になった
それはともするとめでたくも大人になったと言うことなのかもしれないが、いつからか俺はアニメ漫画ラノベの中の非日常への一切の憧憬を失っていた。天を裂き空を斬る熾烈な戦闘も、主人公に訳もなく好意を寄せる妖艶な幼馴染も、古来稀な主人公だけの特別な前世も、血沸かせ肉躍らせるに足らず――けれどそれは刺激が足りなかったわけではなく――そう、そんな非日常の全てが薄っぺらに感じられたからだろうと思う。
高校三年を迎えても何もなかった俺は、アニメ漫画ラノベの世界が全くの嘘っぱちであるとようやく気付いたというわけだ。
――、いや違うな。
他人より多少頭が出来ていることだけが取り柄だった俺は、科学と常識の物差しに則ってそんなものが全くのデタラメなんてことを幼いころから――大体小学校に入る前にはよっぽど分かっていたはずで――。けれど今になってようやく理解したのだ。
本当にそんな非日常は存在しないのだと。どんなに願い続けたところで非日常は訪れやしないのだと。
騙された。
と思うよりも腹が立ったね。
しかしだからと言って俺にはどうすることも出来なかったのは言うまでもない。怒りをぶつけようにもぶつけるべきものが分からなかったから。アニメ監督か? 漫画家か? 作家か? それは筋違いと言うものだろうよ。それに無意味だ。
まあいい。幸い俺は高校受験頑張ったおかげで今は結構いい高校に通えているわけだ、このままいけばそこそこの大学に合格して、そこそこの企業に就職できるだろう。かつて俺が普通なんてものを心底嫌っていた頃にはそんな人生耐えきれなかっただろうけど、俺だって成長したし変化したのさ。何も変わったものばかりが素晴らしいとは限らないだろうよ。非日常を求めてインドへ放浪の旅に出かけるのなんてのは、俺には到底理解しがたいね。
つーわけで俺は残り少ない灰色の青春をそれなりに受験勉強に捧げようかと思っていた矢先である。その事件は起こってしまった。
あまりにも荒唐無稽で突拍子もない事件。
事件と言うよりも事故。
恋と言うよりも故意。
そして俺の人生を揺るがすこの事件の発端は――実のところ二年前、いまだピュアだった俺が期待を胸に高校に入学してきたあの春に遡るのだ。
あの春。
二年前の春。
あの日、俺のおかしな人生は始まった。