「正直は三文の徳」
「正直者が馬鹿を見る」そんな故事ことわざがあります。いや、言いたいことは分かりますよ。嘘も方便とも言いますしね。でも、私は、正直者が好きですし、自分も正直者でいたいと思います。そもそも、正直者でいても、馬鹿を見ないように、見られないように振る舞うのが一番理想のキャラクターでもあるのです。
そのスパイス屋を初めて見かけたのは、GW前だったと思います。西日暮里でご飯を食べ、日暮里まで歩いて行くことに。その道すがら見つけました。西日暮里駅からだと徒歩5分位かな?赤い看板が目立つ、間口二間半ほどの小さなお店です。
さて、なんか、入りたいけど入れない!異国のスパイス屋、醸し出すオーラが来るものを威嚇するようで、店内にはインド系のお兄さんが3人いました。いよいよあやしいぞ…。入ったが最後、身ぐるみ剥がされるなんて、事だ。その日は断念し前を通り過ぎました。いやはや…。
それから数週間後、再びそのお店「ハラルフード」へ。意を決し「今日は入るで!」と。そこで、異国情緒漂う夢のような光景に出くわしました。
店内にはシンプルな備え付けの棚とスチールラック。棚には見たことも無いような商品がギッシリと積まれています。様々な形の豆、種類豊富なスパイス、タレ、缶詰、粉類、タイ米やフォー。また冷凍庫には肉の塊や冷凍食材が入っていました。これ何に使うのだろう?と、商品を手に取って見ているとあの怖そうだと思ったお兄さんが奥から出てきました。
恐る恐る「これ、何に使うの?」と聞くと、ニコニコしながら片言の日本語で気さくに教えてくれました。おお!怖くない!と思ったら人類みな兄弟。私も友人も「これは?それは?いくら?」と質問攻めに。そこはお値段もとても安く、レンズ豆なんて1キロ350円位。その日のお会計は1200円。あやしいなんて思ってごめんね!パンパンの袋を持って私達はご機嫌で店を出ました。
先日もまた「スパイス屋行ってみよーぜ」と。慣れた道、すぐにあの赤い看板が目に飛び込んできました。なんだか懐かしい気持ちになり、「やってる?」と心の中で呟き店内へ。
商品を見ていると、あの気さくなお兄さんが出てきて嬉しそうにこう言ったのです。「マエモキタネーー!!!」おおお、なんと覚えててくれたのです。久しぶりの再会を喜び、その日も色々聞きながら商品をカゴに入れていきます。カレー用にスパイスを物色「ソレハカライ、ソッチハモットカライ。コレハアマイノスルトキ」お兄さんは説明してくれます。そして、大きな声で言ったのです。
「ボクハツクッタコトナイケドネーーハハハハーーー」
私の甲高い笑い声が響きました。そのお兄さんは「イエデハ、ワショク(和食)ツクルー」と(笑)。「あ、じゃあ、お昼とかは?」と聞くと「オヒルモ、ココラヘンデ、テキトウニスマス。ファストフードトカオイシイネ」と(笑)。気持ちのいい正直者っぷり。ま、日本食美味しいもんね!
「エライネ。ジブンデゴハンツクッテ」お兄さんは少ししんみり言いました。「こういうスパイス好きだよ、すごく安いね」私は答えます。すると「モット、ニホンジンニ、キテモライタイ。ダカラボク、イマ、イッショウケンメイ、カイテル。ツクッテル」と目を輝かせながら力強く言いました。どうやら、今、ホームページを立ち上げるべく、一生懸命書いているそうなのです。
素直に応援したいし、もっと流行って欲しいなと思ったと同時に、まず、ちゃんと書けるのか不安がありましたが、きっと大丈夫なはず!たぶん、わかんないけど。
楽しいお買いものも終わりお会計へ。するともう一人インド系の太っちょのおじさんが奥から出てきました。どうやら、お兄さんがおじさんへ、レジの打ち方を教えているらしいのです。
友人の会系は1.735円。2.000円と端数の小銭を出し、大丈夫かなと思ったのも束の間、案の定レジはごちゃごちゃに。「いいよ、ゆっくりやって」と見ていても何度か打ち間違えし、友人が計算を手伝いようやく終わりました。私のお会計、1.565円。不安だったけど5.000円出し「こっちの方が計算楽だね」と言いながらも、案の定0を一個多く押したりのハプニングが。やっとのことで二人分の会計が終わり、その太っちょのおじさんは安堵の表情を浮かべ、大きな声でこう言ったのです。
「エン(円)テ、ムズカシイネーーーハハハーーー」
笑うしかありません。ここにもいたのです。正直者が。「また来るから、ホームページ頑張ってね!」と別れを告げ、ご機嫌で鳥貴族へ向かいました。
ZIMAを頼み、お疲れ乾杯。しばらくして大好きな砂肝が来ました。普通の砂肝が。その時何故か私はクルっと裏側になっていた方を上にしました。すると、裏側が焦げていました。表は焦げていなかったのに…。
「ああ、そういうことか…」と少し心がざわついたのも一瞬。すぐにさっきのスパイス屋の二人の笑顔を思い出しました。裏が焦げた砂肝だけど、食べたらやっぱり安定の美味しさで、私はZIMAをもう1瓶頼みました。