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彼の昼食

 彼は『門番』である。

 たとえ門だけを守ればいいんだと、心の底から勘違いをしていようともそれはゆるぎない事実。どんなに隊長が「だから違うんだってっ!」と言おうとも、彼の考えは揺るがない。

 そんな彼だが、実は寝ること以外に楽しみにしているものがある。

 それは、食べることである。





 のどかな、とてものどかなお昼時。

 門近くの木陰に、シートをひいて座る人影が3名。

 彼と相棒と、そして女性。

「さあ、どうぞ」

 にこりと微笑む。

 何処か王子と似た雰囲気を漂わせる女性は、実は王妃だったりする。

 なんでここに? とは考えてはいけない。あの王子の母だ、とだけ言っておく。

「……いただきます」

「いただきます」

 目の間には色とりどりのおいしそうな食べ物たち。

 簡単につまめるものから、手の込んだもの、さらにはデザートまで用意された昼食としては豪華すぎる料理である。

「どうかしら?」

「今日もおいしいですね。あ、もちろん一番は妻の手料理ですけど!」

「まあ、それは仕方ないわね」

 ははは、うふふふ。

 そんな微笑ましい会話を聞きながら、彼は黙々と食べる。食べるったら食べる。だっておいしいんだもの。

「気に入っていただけて?」

「……」こくりと、頷く。

 実は彼は寝ることの次に、食べることが好きだったりする。

 ちなみに作ることはない。食べる専門である。

 そんな彼を、小動物を愛でるかのように見ている王妃と相棒だったりするのだが、食べることに集中している彼は気づかない。

 きっと今なら、魔物の襲撃があっても無視をするだろう。

「そういえば、今日は王子様はどうされたんですか?」

「もちろん、王子としての仕事に励んでいることでしょう」

「ご愁傷様です」

「ふふ、親孝行でしょう?」

 王妃が来るとき、王子の姿はない。なぜならば、己の仕事を引き継がせるという名目で、王子の仕事が5割増しになるからだ。

 王妃曰く、「自分からの申し出よ?」とのことだが、王子は「……無言の……いやなんでもない……」らしい。


 真実を暴こうと考えてはいけない。


 まあ、そんな背景があるものの、趣味の料理の腕前を披露できるこの場が、王妃的にはとっても有意義な時間らしい。

 ちなみにこの“無駄に豪華な昼食”は、週一の割合だったりする。

 明日の王子はきっと、ぐったりとして無言のまま寝続けるだろう。彼にとってはどうでもいいことだが。


 そうしてそよ風の吹く中、黙々と食べ続けていると、ふと、門から出てきたらしい隊長が、なんとも言えない顔で立ち尽くしているのに気付いた。

「……。……」

「……おや、隊長」

「あら」

「…………王妃様」

「まあ」

 にこりとほほ笑む王妃においでおいでされ、こちらに来る隊長。全身から哀愁が漂っているのは気のせいではないだろう。

「いつもご苦労様です。さあ、お食べになって?」

「……ありがたいお言葉ですが……その」

「さあ、まずはこのサラダからいかが?」

「え、と、その……」

 全身から、仕事中ですからっ!! との思いが見て取れるのだが、目の前には綺麗に微笑む王妃。


 まさか私の料理が食べれないと?


 そんな無言の圧力が感じられる。

 一秒にも満たない攻防戦の末、隊長はそれを受け取った。

「っ、いただきます……」

「はい、召し上がれ」

 王妃は嬉しそうにほほ笑んだ。




 王子が相手だったら即座に城内に連れ戻そうとする隊長だが、王妃相手だとそうはいかない。

 身分的問題がとか、そういう問題でもない。

 ただ単に、なんか逆らっちゃまずい。そんな気がするのだ。


 そう、噂では国王でさえも頭が上がらないとかなんとか。


 そんな王妃には、おそらく『 最 強 』という言葉が相応しいだろう。





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