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彼の仕事

 彼は『門番』である。

 いつも寝ているような気がしないでもない、ほんとに門番? と疑問を覚えるかもしれないが、隊長曰く「一応優秀」らしいので、それは事実。

 そんな彼だが、仕事にはとても忠実である。






 深夜。

 誰もが寝静まる静かな夜だが、城を背に構える裏門は、実はとても賑やかだったりする。

 活発化した魔物の襲撃のせいでもあるのだが、それ以上にこぞってやってくるお客様たちがいるのだ。そう、闇の中に身を置くことを専門とした職業の方々が。

 そんなわけで、さすがの彼も昼間のようにのんきに寝ているわけではない、と言いたいところではあるのだが、気配がするまではやっぱり寝ていたりする。


 ――今日は、一人、か。

 ひゅんと、微かに振動が空気を震わす。

 直後、どこからともなく飛来する弓矢を、けれど動じることなく叩き落とし、目を細める。そして。

「…………」

「――っ!」

 上から降ってきた何かを力いっぱい弾き飛ばし、門を背にする。

 暗闇に慣れた目に映るのは、これまたセオリー通りと言ったらいいのか、全身見事なまでの黒一色。小柄な外見からして、恐らく女だろう。

「……何の用だ」

 何の用も何も、ここにこうしていること自体が答えなのだが、それでも彼は毎回同じことを質問する。

「用があるのは貴様じゃない。そこを通せ」

 案の定、いつも通りの返答に、彼はため息をつく。

 なぜ、彼らはいつもいつもここを通ろうとするのだろうか?

 まったく理解できない。

 だから彼の答えも一つしかない。

「無理なことを言うな」

「……ならば力ずくで……」

 ゆっくりと間合いを取ろうとする黒装束の女に、彼は再度ため息をつく。

 これをいうのもいったい何回目だろうと、心底めんどくさそうに。

「だから、いつもいつも言ってるんだが、そんなに中に入りたいなら壁でもよじ登れ」

「………………は?」

 理解、出来なかったらしい。

 思わず漏れる、素の驚き。




 何度も言っているが、彼は『門番』である。

 つまり、門を守るのが仕事である。



 そう、門 だ け を守るのが仕事だと。


 彼は、海よりも深く信じ込んでいる。




 よって、

「だから、壁でも木でもよじ登って勝手に入れ」

「い、いい、の、? え、大丈夫?」

 心底、と思えるほど投げやりな言葉に、恐る恐る聞き返す黒装束。

「門にさえ触れなきゃどうでもいい」

「え、だってあなた、門番でしょう?」

 襲ってきた側に心配される門番という、なんとも不思議な構図が出来上がっているのだが、それに疑問を挟める人物は、幸か不幸かこの場には存在しなかった。

 まあ、いたとしても彼の考えは変わらなかっただろうが。

「ああ門番だ。だから壁や木は管轄外だから、どうでもいい」

「…………そ、そう?」

「ああ」

「……そう」

 あまりといえばあまりの言葉にまったく理解が追い付かないながらも、黒装束はゆっくりと移動し、彼を気にしながらも壁をよじ登る。

 そうして、上に体を押し上げたところで、見下ろす。

「じゃ、じゃあ入る、ね?」

「ご勝手に」

「そ、そう」

 やや躊躇いながらも、ひらりとその姿が壁の向こう側へと消えていく。

「……ふう」

 そうして、彼は、本当に静かになった闇の中、壁に背を預けて欠伸をひとつ。

「今日も門は無事。さて……、寝るか」

 ゆっくりと、瞳を閉じた。






 ちなみにその数分後。

 途端に騒がしくなった城内から、鬼の形相で出てきた隊長により、文字通り叩き起こされたのは言うまでもない。





(個人サイトからの加筆修正掲載です)

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