彼の相方
彼は『門番』である。
いったい一日何時間寝てるんだと疑問を持たれようとも、誰だこんな門番雇ったのって俺だよっと何処かの隊長に嘆かれていようとも、それは変わらない事実。
そして、そんな彼には、実は相方がいた。
今更だが、彼の守る門は王宮の裏門である。
そして、裏門だからこそ決して一人で守っているわけではなく、定石通り二人であり、もちろん彼にも相方がいる。
とても真面目な25歳、愛妻家の青年であるのだが、どこかぽややんとした感じを漂わせているため、隊長の人選について小一時間ほど語ってみたいといったのは誰だったか。
と、まあそんな青年であるため、やっぱり一筋縄ではいかない性格をしていた。
「でね、娘が『パパのお嫁さんになるの』っていうんですよ!」
「……はあ」
「可愛いでしょう!? うちの子世界、いや宇宙で一番!!」
「…………まあ」
肌身離さず持ち歩いているらしい写真を見せられて、頷く。
そう、いつもにこにこぽやぽやしている穏やかな青年だが、こと家族のことになるともう、止められない止まらない。
とは言っても、そこはさすがに彼。もちろん真面目に聞いているはずがない。
完全に右から左に聞き流し、ちょっとうとうとしながら適当に相槌を打っているだけである。
……だって、もう耳ダコなんだもの。
「君もそう思うかい!? もう犯罪的な可愛さだよね!!」
それでも青年的には満足らしい。
うきうきと話し続ける。
「でね、でねっ……と、ちょっと待ってて」
と、そこで何かに気づいたように前方にすたすたと歩いていく。
森の向こうの空からばっさばっさと近寄ってくる、蝶々のような魔物。もちろん蝶々なんて可愛らしいものではなく、とても巨大でどこか禍々しい。
そして――。
どがばきぼぎごすっ。
「それでねー」
にこにこと、青年は何事もなかったかのように会話を再開させる。
べっとりと禍々しい血の付いた剣を片手に持ち、家庭のパパそのままで笑う姿は、子供が見たら絶対トラウマになること間違いなし。
大の大人でさえも、真っ当な思考回路と感性を持ったごく普通の人ならば、三日三晩ぐらい魘されるかもしれない。
とてもではないが直視できる光景ではない。
もちろん本人以外からは真っ当じゃないと認定されている彼は、動じない。隊長は一晩魘されたが。
「僕はねー、娘は絶対に嫁にやらないって決めてるんだ!」
「……へぇ」
確か娘はまだ5歳のはずだが、と思いはしたが彼は何も言わない。
「でも、……もし、僕からあの子を奪うやつがいたらどうしよう、きっと殴っちゃうよ……」
「…………大変だな」
婿が。
殴るだけで済めばいいけどなと、彼にしては珍しくまだ見ぬ架空の婿に同情した。
やっぱり口には出さなかったが。
このように、大変な問題児である彼の相方は、やっぱり一筋縄ではいかない性格をしている。
逆に言うと、こんな性格でないと彼の相方は務まらないとも、言えるかもしれない。
そんな彼の相方は。
たとえ彼がどれだけ居眠りをしていようとも。
脱走してきた王子がいつの間にかその隣にいようとも。
それを見つけた隊長がどれだけ怒鳴り込んでこようとも。
そのすべてを、穏やかな笑顔で見守っている。
そう、彼の相方はある意味 『 器 が で か い 』。
(個人サイトからの加筆修正掲載です)