彼の友達
彼は『門番』である。
睡眠をこよなく愛し、隙あらば寝ようと……いや、隙がなくても寝ようとする門番としてはちょっとどうかと思う性格をしていようとも、それは変わらぬ事実。
そして、そんな彼には一応、友達と呼べるものがいる。
「やあ、門番」
いつも通り壁に背を預けてまどろんでいた彼は、呼ばれてそちらに視線を向ける。
にこやかに片手をあげてやってくる、彼より二つほど年上の青年。もちろん年相応。
そんな青年を一瞬視界に収めてすぐそらす。
だってどうでもいい。
だが、一方的に彼を友達だと認定している青年は、そんな態度など気にすることはなく、輝く笑顔を向けてくる。
「んー、やっぱここが一番いいねー」
「……そうか」
当たり前のように彼の横に腰掛ける青年に、それは同感だと頷く。
ここは最高の場所なのだ。
「日当たりもいいし」
「……そうだな」
最高の場所なので、彼の返答は生返事。
最高の場所なので、やっぱり眠いのは当然。
「……いつも思うけど」
ふと、青年はこちらに視線を向けた。
「お前、僕に対する敬いがないよな」
「必要性を感じない」
きっぱりと言ってのける。
彼が形式上だけでも敬うのは、直接の上司である隊長だけである。
たとえ青年がやたらと上品な服装をしていようとも、たまに気品を振りまいていようとも、青年に対するそれは、ない。
だって青年は 部 署 が違う。
「……即答か」
「もちろん」
それにも即答を返し、ふと、聞いてみる。
「敬って欲しいのか?」
「まさか。というか気持ち悪いからやめてくれ」
こちらも即答。きっぱりと否定。
「そうか」
「ああ」
ならば何も問題はない。
「…………」
「……………」
訪れる沈黙。
けれどそれは決して気まずいものではなく、頭上の雲のように、ひどくゆっくりと流れる心地よさを感じる。
それはそうだ。
だって、望むものは同じなのだから。
「……眠い」
「………眠いな」
「眠いときは寝るべきだと僕は心底思う」
「同感だ。残念ながら、隊長は賛成してくれなかったけどな」
「ああ、アレは例外だな」
「そうだな」
どうでもいいことを口にしながら、徐々に瞼が下がってくる。
そうなると二人の間には、もはや会話すら不要なものになる。
暫しのち、さあ本格的に眠りに入ろうと、何の気なしに横を向いた。
――そしたらちょうど門から出てきた隊長と目があった。
瞬時に覚醒。
「あ」
「まずい」
「何をやってるんですかあなたはぁぁぁぁぁっ!?」
彼の友達の職業 『 王 子 』。
ちっと友達は、王子らしからぬ舌打ちをひとつ。
「それじゃ門番。僕は安息を求めて逃げる」
「ああ、達者で王子」
「だから抜け出すなと何度言ったらわかるんですか王子――っ!!」
遠ざかる怒声を子守唄に、さあ寝ようかなと、欠伸をひとつ。
今日も平和だ。
(個人サイトからの加筆修正掲載です)