彼の職業
柔らかく暖かい日差しが降り注ぐ。
吹き抜けるさわやかな風に、時折混ざる楽しそうな鳥の鳴き声。
そんなの中、壁に背を預ける彼の瞳は自然に逆らうことなく、うつらうつらと閉じかけている。
とてものどかな光景だ。
「……眠い……」
浮いては沈み、沈んでは浮くという意識の中、何とか声を出してみるも、眠気は一向に去ってはくれない。
だって、眠いものは眠いのだ。
まるで布団に包まれているかのような、このぬくもりがいけない。
だって、ぬくぬくするんだもの。
「…………」
というより、むしろこんな寝てくださいと言わんばかりの状況で寝ないなんて、世の中に対する冒涜ではないだろうか?
そうだ。
これは眠れという、信じてもいない神のお告げかもしれない。
眠るべきだ。
眠ろう!
よし、と胸中で納得し、ああ、なんて気持ちがいいんだろう……と瞳を閉じようとし――、
「寝るなぁぁぁぁぁっ!!」
「っは!?」
――た、ところで突然の怒鳴り声。
一瞬で沈みかけていた意識が引き摺りあげられ、思わず恨めし気に声の主を見上げる。
「……なにをするんですか隊長」
「何じゃないわ!!なに当然のように寝ようとしてやがる!?」
そこにいたのは鬼、と呼ぶのが相応しいだろう表情をした、歳は確か40少しすぎの男。平時は穏やかと評判の人物だが、今、その欠片は微塵もない。
いや、そもそも彼は穏やかな表情というものを見たことがないので、彼にとってはこれが見慣れた表情である。
なので、まったく怖くもなんともない。
「知ってますか? 人は眠いときに寝ないとダメなんですよ?」
「ああそうだなそういう言葉は徹夜明けの俺に適用されるべきものであって、平時寝て過ごそうとするお前には当てはまらないな」
「そうですか?」
心底不思議そうに目を見張る。
その表情は、実年齢20歳のくせして外見の童顔っぷりから16歳くらいにしか見えないという現実により、とても幼く見える。
が、そんなことは今、関係ない。
「お前は仕事中に寝るなと、何度言ったらわかる!」
「いつ仕事をさぼりました。ほら」
と指示した木の陰には、ロープでぐるぐる巻きにされた意識のない人間×3。
「……どうしてお前は……どうして……」
がくりと頭を垂れる隊長。
どうして、の後に続くのはきっと「一応優秀なのに」だろう。
「……はあ」
ため息をつきつつ、ロープの端をつかむ。
「これは持っていくから、……頼むから寝るなよ?」
「仕事はしますよ?」
悪びれる様子もない、暢気な声を背に再度ため息をつきつつ隊長は踵を返す。
――が。
「……さて、寝るかな」
瞬間、聞こえた独り言に、ぴきりと額に青筋が浮かんだ。
彼の職業 『 門 番 』。
「だから寝るなと言ってるだろうがぁぁぁぁぁ!!」
「っ!」
怒号が、辺りに木霊した。
(個人サイトからの加筆修正掲載です)