第99話『御子』
どれだけ鈍くてもわかってしまう。わたしがレーコさんに似ているという事実と、森で行方不明になった娘の話は1つに繋がる。
「でも、ニーナさんがレーコさんの子供のはずなのに、そんなことって」
「入れ替わったとはお考えになれませんか?」
「えっ?」
ニーナさんがわたしと入れ替わった?
「ジルベールが偽のニーナをあなたの身代わりとして仕立てたのです」
ジュリアさんはきっぱりと言い切った。迷いもなくそれが正しいと言うばかりに。しかも、王族のジルベールさんを呼び捨てにするなんて、よほどジュリアさんは嫌いなの?
「ジルベールにとっては、あなたがレーコ様と消えた事実はうまくなかったのです。あなたを知る側近を皆、追放をしたのも、偽のニーナを仕立てるためでしょう」
そうだとしても、自分がまさかレーコさんの子供なんて、考えたこともなかった。それじゃあ、あちらの世界のお父さんやお母さんは偽者だと言うのか。わたしにはちゃんとクラモチミヤコという名前があるのに、実は違っていたなんて、認めたくない。
認められないわたしに対して、ジュリアさんは「あなたはレーコ様の御子です」と言いきってきた。ジュリアさんはかつてのわたしのことを知っているのかもしれないけど、どうしても受け入れられない。
「そんなの、理解できません」
わたしのお父さんやお母さんはあの人たちだけだ。どれだけ淋しい思いをしたとしても、親はあのふたりしかいない。ずっと、そうだった。
「本当にそうですか?」
ジュリアさんの問いかけに言葉が出ない。ふたりはわたしの親だと言い切れるのに、レーコさんが親であることは決して不自然じゃなかった。むしろ、自然な気がした。
わたしがあちらの世界でみんなと馴染めなかった理由も、自分だけが違うという疎外感も、このせいだったとしたら、つじつまが合う。だけど、まるで現実逃避のための都合のいい夢のようで嫌だ。
もし、1年前のわたしだったら『お姫様』に魅力を感じただろう。ようやく自分の居場所を見つけられたことに飛び上がって喜んだかもしれない。
神殿を飛び出さなければ、サディアスに出会わなければ、わたしはずっと夢を見ていられた。
しかし、今はレーコさんの娘である事実はそんな心地のいい夢で終わるものではない。
「認めるのが怖いんです。だってレーコさんは『復讐』をするって。もし、わたしがレーコさんの娘だったとしたら、もう今頃、『復讐』ははじまってます」
「あなたが『復讐』のはじまりだとすれば、終わりにできるのもあなたではないですか?」
終わりにできるのはわたしだけ?
「レーコさんの『復讐』っていったい何ですか?」
妻が夫を亡くし、復讐するとしたら。
「レーコ様のお考えはわたしにはわかりかねますが……わたしでしたら、夫を殺した相手の死を望むかもしれませんね」




