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白馬と姫  作者: カーネーション


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第92話『ジュリアという名前』

 スープを平らげたぐらいでは、まだまだ満たされないわたしのお腹である。おかわりをしようとしたらサディアスににらまれてしまい、仕方なく大事にとっておいたマージさんのお菓子をかじる。


 んまい。口に入れると紅茶のかおりがほんのり口に広がる。食べている間は、サディアスのあきれた瞳を見ないようにする。どうせ、良いことなんて考えていないんだから。


 袋が空になったところで、わたしは気になっていた疑問について聞いてみることにした。


「で、これから、どうするの?」


 ゲオルカに着いたものの、レーコさんの侍女に関する情報は少ない。新聞の記事には、彼女の詳しい居場所まで記されていなかったらしいし。


「“ジュリア”という名だけしかわからないが」


「聞きこみするしかないのかな」


「地道な手だが仕方ないだろう」


 昼間のゲオルカは本当に人通りが多くて、ひとりひとりに話を聞いていたら相当な時間がかかってしまうはずだ。1日使ってもまったく足りない。苦労を考えたら、ため息も勝手に出てしまう。


「向こうから来てくれたらいいのに」


「そんなうまくいくか」


「まあ、そうだけど」


 そうなったら楽だなあと思っただけで、本気じゃない。こっちの世界に来てからも簡単なことなんてなかった。結局、世界が変わったところで何かしら我慢とかしなくちゃならないんだ。


 でも、向こうの世界よりもこっちの世界のほうが馴染みやすかったから、わたしにとっては良かったのかもしれない。


 いつも不機嫌だけど、話し相手もいるし。その本人はあきれたように目を伏せていた。アホなことを言ってすみませんね。


「ねえ、とりあえずは、今日は疲れたし、休んで明日に備えよう」


「お前は口を開けば、疲れた疲れたと言って……」


「あー、今日は説教はいらないから。面倒だし」


「面倒だと? 俺だって好きで説教をしているわけではない。お前の悪いところは――」


 説教モードに入ると長くなりそうで、わたしは逃げるように席を立つ。「フォル!」とサディアスにしては大きな声で呼ばれたけど、わたしは知らないふりでその場を後にした。


 翌日からは、本格的な聞きこみをはじめた。ゲオルカの人通りの多い場所で、街をよく知っていそうな人に当たってみる。


 聞いてみたなかで、“ジュリア”という名前の人は確かにいた。だけど、彼女たちはわたしの顔を見ても何の反応もしない。だから、探している“ジュリア”ではないとわかる。


 というのも、マージさんいわく、わたしの顔はレーコさんに似ているらしい。レーコさんの侍女だった人なら何かしら反応を見せるはずなんだ。そのため、いぶかしげだったり、首をかしげられたら違うと判断できた。


 でも、忌々しいサディアスの言う通り、1週間が経っても、ジュリアさんの行方はわからなかった。


 今夜も収穫はなく、部屋に戻ると、わたしはベッドにダイブした。夕飯を共にしたサディアスも口数が少なかった。かなり疲れたのだろう。昼間はずっと歩きっぱなしだったし。


 扉に鍵をかけたっけ。その記憶がない。サディアスにはちゃんと鍵をかけろと何度も注意されたんだけど、いったん閉じた目を開けられない。こうなったら仕方ない。怒られてもいいや。わたしは誘われる眠気に身を任せた。

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