第8話『偉い人に会う』
両開きの豪華な扉の前で、クラウスさんは足を止めた。ニーナさんはていねいな手つきで頭の飾りを直したりする。口元がゆるんでいて、とても楽しそう。
残念なことにわたしの視線に気づくと、ニーナさんはまた不機嫌に戻ってしまった。
「あなた、くれぐれもお兄様の前でそそうなさらないようにね」
「そそう」
念を押して言われると、そそうしてしまいそうで怖い。これから偉い人(ニーナさんのお兄様)に会うらしいし、どうしよう。
「異世界の御方、大丈夫ですよ。ジルベール様は穏やかな方ですし、固く構えないでください」
クラウスさんが勇気の出る言葉をくれた。見守ってくれるような……そう、お父さんみたいに暖かいんだ。最近はあんまりお父さんの顔は見ていないけど、写真ではこんな感じだった。
「ありがとう、クラウスさん」
「いえ」
笑顔も雲ひとつない青空のようにさわやか。わたしの頬もほころんでしまう。そうだ。クラウスさんがいるもの大丈夫。そう思ったら、不安も緊張感も抜け落ちていた。
謁見の間と呼ばれるそこは、庶民には触れられない神聖な感じがする。玉座まで真っ直ぐに赤じゅうたんが敷かれているの。
本当に偉い人の部屋には赤じゅうたんが敷かれているんだ。なんて感心していると、やっぱりクラウスさんに置いていかれてしまう。慌てて早足で追いついた。
王様――ジルベール様は髭だらけだった。いったい歳はいくつなんだろうと思ってしまうくらい。
ふわふわのファーがついた真っ赤なマントを肩にかけている。髭が真っ白だったらサンタさんみたいかも。王冠には赤とか緑とか大きな宝石が輝いていた。
「異世界の御方、よく参られた」
「えっと、お招きいただきありがとうございます?」
ちゃんと応えられたかなと思って、クラウスさんの顔を見ると穏やかな目で包まれた。うなずいてもらうと自信がつく。ジルベール様の笑う声が聞こえた。
「固い言葉はやめようか。クラウスもニーナもよくやってくれたね」
「お兄様」
ニーナさんは明らかにお兄様の前だと態度が変わるみたい。胸の前で指を組んで、うっとりとお兄様を眺めている。
「異世界の御方、あなたの名前をお聞きしてもいいかな?」
異世界だし、プライバシーも関係ないかと思って。
「はい、えっと、倉持 都と言います」
くらもちみやこという普通の名前を告げたら、ジルベール様は髭を揺らして笑ってくれた。みやこが名前で倉持が名字だということを説明したら、「ミャーコ」と呼ばれた。