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白馬と姫  作者: カーネーション


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第73話『ふたりの顔』

 絵本を読むのも飽きてきて、サディアスを探そうと思った。そして、すぐに見つかった。一番奥の隅っこのほうで、紙の山に囲まれたサディアスが座っていた。


 ひたすらに文字と向き合っている横顔は、わたしが近づいても気づく様子はない。それだけ集中しているってことだろう。


 わたしも紙の山から1枚めくって目を通してみる。でも、読めるわけがなく、早々に元に戻した。


「サディアス、何か見つかった?」


 聞いてみたけど、サディアスは黙々と新聞に目を走らせている。しかも、少し読んではすぐに次の新聞へと目を向ける。読んでいるというよりかは文字を見ているみたい。こういうのって速読っていうのかな。


 集中しているところ悪いけど、無視されるのはあまり気分がよろしくない。だから、声をかけた。


「ねえ!」


 サディアスの手がようやく止まった。わたしの呼びかけに反応したのかと思いきや、どうも様子が違っていた。


「……あった」


「えっ?」


「レーコの事件の記事は期待していなかったが」


「そうなの?」


「当たり前だ。あの事件が表沙汰になるはずがないだろう。森の外には国王が死んだことぐらいしか知らされていないはずだ」


 ジルベール様はわたしにでさえ、レーコさんの事件について黙っていた。ましてや、そんな事件は記事にもされないだろう。だったら、ここで記事なんか探しても無駄だ。そういったわたしの意見にサディアスは首を横に振った。


「しかし、国王が死んだ数日後に、ベルホルンの住人がフィンボルンに移住してきたという記事が載っている。こいつらは城を追われた連中だ」


「じゃあ、もしかして、その人たちは事件について何か知っているってこと? 知っていたからお城から追い出されたの?」


「そういうことだろうな」


 サディアスは言い置いてから、細長い指で記事のある1点を差し示した。見ろと言われたようで、わたしはしぶしぶその指をたどった。そして、いくつか並ぶ似顔絵のひとつに小さく声を上げてしまった。


 丸く切り抜かれた小さな似顔絵。今より少し若いけど――赤猫の宿屋のおかみさんに似ていた。


「おかみさんなら何か知ってるのかな?」


「わからん。が、レーコに1番近かったのは、この侍女頭だ」


「侍女頭……」


「侍女のトップだ」


 わたしは別に侍女頭の意味がわからなかったわけじゃない。侍女と聞いて、ただわたしの頭のなかにはふたりの顔が浮かんでいた。


 マリアさんとエリエ。神子のために力を尽くしてくれた彼女たちは今、どうしているのだろう。わたしのせいで大変なことになっていないか。おかみさんの似顔絵にふたりの顔が重なって、不安な気持ちが胸によぎった。

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