第68話『フィンボルンの街道』
草原を出てから北東に伸びたフィンボルンの街道を進む。街道といっても、元の世界でよく通った道とはまったく違う。石畳でできた道はゴツゴツしていて、足の変なところに力が入って歩きにくい。
それに、草原を越えてから歩きっぱなしだから足が疲れて重く感じる。騎士だったクラウスさんと(ひ弱そうでも)男のサディアスとは、体力も違う。だから、名案を思いついた。
「ねえ、街に入ったら、宿屋で休みませんか? お昼もまだだし」
「そうですね。そういたしましょう」
「ああ、さすがに疲れただろう。フォルは運動不足だからな」
サディアスは鼻で笑う。本当に嫌みなやつ。しかも、わたしがフォルになった途端、「お前」から「フォル」に変わったし。自分で付けた名前が相当にお気に入りなんだろう。
サディアスを冷ややかに見ていたら、その後ろから近づいてくるものがあった。
「あ」
1台の馬車だ。ガタガタとやかましく街道を駆けながら、横を通り過ぎていく。わたしたちが来た道に向かって走っていくけど、あちらは森しかないのに。
「どこに行くのかな?」
「どうせ、ベルホルンに行くのだろう。城や街の連中は他からまきあげた物資で生きているんだからな」
「おい、サディアス」
あまりにも言い過ぎだと考えたのか、クラウスさんが止めようとする。でも、サディアスは目をすがめて、怒っているみたい。
「何だ、こちら側にいるくせにまだ国王の味方か? 第一、おかしいだろう、国に忠誠を誓った騎士が裏切るなど。いくらこのバカ(わたしをちらっと見た)を気に入っているとしても不自然だ」
なるほど。ずっと、サディアスは疑いの目を持っていたのだ。だけど、聞き捨てならない。
「ちょっと待ってよ。クラウスさんはわたしを助けてくれたの。疑うなんておかしいでしょ」
「女のために国を簡単に裏切る男など信用ならん」
「国を裏切ったのはあんたも同じじゃない!」
「うるさい。そもそも俺は国などに忠誠を誓っていない」
「本当にあんたって」続けようとしたら。
「サディアス、フォル。何でもいいですが、目立ちますよ」
あ、本当だ。クラウスさんに言われて周りを見渡したら、ちらほらと人の姿が見える。聞こえたら困るかも。
とりあえず、サディアスには「おバカ」とだけ返しておいた。言い返さなかったところを見ると、あいつもクラウスさんの言葉で自覚したんだと思う。何も言わないで鋭い目でわたしをにらみつけてきた。そんなの全然、恐くないけど。




