第67話『冒険者の地図』
わたしはこれまでのことを順を追ってクラウスさんに説明した。さらに、ルルさんの話を包み隠さずに伝えたのは、必要だと考えたからだ。途中、サディアスが補足とか、「ここは違う」と指摘をはさんできたけど、無事に話を終えた。
サディアスにバカにされるくらいダメな説明にも、最後までクラウスさんは黙って聞いてくれた。わたしに向けてにこっと微笑むと、感心したようにうなずく。
「なるほど、サディアスとの逃避行ではなく、レーコ様を捜すことが旅の目的なのですね」
「そうです。でも、サディアスに聞いてもどこへ行ったらいいかわからないって言うんです」
当のサディアスのほうをちらっと見たら、鋭くにらまれてしまった。わたしが言いたいことがわかったのかもしれない。あんまり役に立たないなあと思ったのがバレちゃったらまずいか。また、攻撃される。
「その点につきましては俺がお役に立てるかもしれません。これです」
クラウスさんが取り出したのは革の紐でまとめられた巻き紙だった。彼は紐をほどき、巻き紙を広げる。そして、わたしにも見えるように巻き紙の内側を伸ばして掲げた。
「地図ですか? どうしてこんなものを?」
「ある冒険者が記したとされる地図です。あまりに貴重で、この地図を肌身離さず持っています。この地図によると、森から一番近い街は……ここです」
クラウスさんが示した場所は森の西から少し離れたところだ。小さく文字が書かれているけど、読めない。
わたしの横でサディアスがぼそっと「フィンボルンの街か」と呟いた。
「まずはこの街へ行ってみましょう」
「その前に、ヴォルグフート元副団長」
サディアスに呼びかけられると、クラウスさんはたちまち不機嫌そうな顔へと変わる。
「その呼び方はやめてくれないか、サディアス・クロス」
「そうか。では、クラウス。追っ手のほうはどうした?」
「ああ、熊――隊長はひどい手を使ったが、何とか気絶させた。しばらくは追ってこないだろう」
それを聞いて少しは安心したけど、ベルホルンの追っ手もいずれは森を越えてくるかもしれない。サディアスなんかは「熊に勝てたのか」と呟いている。
「でも、いつかはやってくるんでしょう?」
「今のところは団員たちに森を越える許可は出ていないはずです。まして、俺のような罪人には許可の有無など、まるで意味はありません。今のうちに逃げてしまいましょう」
クラウスさんの言う通りだと思う。逃げるなら早いほうがいい。だけど、クラウスさんの腕には真っ赤な血がにじむ。
「あの、クラウスさん、傷は大丈夫ですか?」
地図を懐にしまったクラウスさんはシャツの袖をちぎった(というか、袖ってちぎれるんだと驚いた)。縫い目にそって引き裂く。それを怪我の部分に当てて、縛った。
「これで大丈夫。さあ、行きましょう」
クラウスさんが怪我をしていない右手でわたしの前に差し出してきた。やっぱり、クラウスさんはわたしをレディとして扱ってくれる。ちょっとくすぐったい。
だけど、「迷子扱いか」と横から鼻で笑ってくる。聞き捨てならないわたしは、意地になってその手を取る気にはなれなかった。




