第6話『街のなか』
クラウスさんについていくことを決めて良かったのかなと思ったけど、実際に街のなかを歩いたらそんな気持ちは吹っ飛んだ。
だって、街の女の子たちは、みんなワンピースやドレスを着ていておしゃれなの。リボンやフリルは必須アイテムみたいで、髪の毛をまとめるのにもよく使われていた。バッグの代わりにバスケットを持つ子が多かった。
やっぱり人の姿を見ても、クラウスさんやニーナさんは目立つ。視線を集めるのは当然、綺麗だもの。わたしを見るのはたぶんセーラー服だから、物珍しさじゃないかな。
ニーナさんは洋服が並んだお店の前では、足取りが重くなった。確かに窓をのぞいてみると、店内にはたくさんのドレスやワンピース、小物が飾られているの。ニーナさんも女の子だ。わたしも興味ある。
それでもクラウスさんは待っていてくれない。眺めているわたしたちに気づかずに、先に行ってしまう。
結構、女の子の気持ちをわかっていないみたい。ニーナさんと目が合ったら、「ふん」と顔をそらされてしまった。慌ててクラウスさんを追いかけた。
それからもわたしの足は色んなお店の前で何度も止まった。
焼き菓子の甘い香りをかいだだけで、しあわせなんだもの。手に乗るくらいのバスケットに詰められたお菓子。かたちはクッキーに似ている。赤い木の実がトッピングされていて。どんな味がするのかな?
1枚くらい欲しかったけど、ニーナさんににらまれてやめた。ニーナさん、食べ物には興味がなかったらしい。彼女は細い腰に両手を置いて、大きく息を吸う。たぶん、何か吐き出したいことがあるんだと思う。
「あなた、いちいち店の前で足を止めて、いい加減にしなさいよ。いい? あなたはお城に行くのよ。寄り道は許さないからね」
クラウスさんの助け船が来なかったことを考えると、その考えに同意ってことかな。ニーナさんに急かされながらしぶしぶ歩いた。しぶしぶだから、少しテンションが下がっちゃった。
誰かとこうやって街を歩くのは久しぶりなのに、異世界へ行ってもわたしの存在は浮いているんだと気づかされた。