第5話『外人の女の子』
クラウスさんの隣には、いつの間にか、外人の女の子が立っていた。目鼻立ちがはっきりとした可愛らしい女の子。つり上がった目は少し怖いけど、わたしと同じくらいの年齢かもしれない。
つやのある黒髪は後ろの方で三つ編みにされて、くるりとバレッタでとめられていた。フリルたっぷりの黒いドレスからのぞく白くて細い腕は、白うさぎの前足を思い出しちゃった。そういえば、さっきから白うさぎが見当たらない。
「ねえ、クラウス。本当にこんな小娘が神子だっていうの?」
「ええ、間違いないでしょう。彼女は我々の言葉を理解できます」
「まあ、そうね。でも、言っていることがおかしいわ。この世界が夢って何なの? お兄様が築かれたこのベルホルンがたかが小娘の夢なわけないでしょう」
わたしを置いてきぼりにして、ふたりは話を続ける。
ニーナという女の子はわたしがお気に召さないみたい。ちらちらとこちらを見る目は冷ややかなの。逆に、クラウスさんはわたしを見るとにっこりと笑ってくれる。とてもいい人。
「異世界の御方。ニーナ様の失礼な発言をお詫びいたします」
「いえ。あの、本当にこの世界はわたしの夢じゃないってことですか? 混乱してて。でも、ニーナさんの言うようにわたしが神子なんて間違いだと思います」
「ほら、本人も間違いだって言ってるじゃない」
「ニーナ様。予言が間違いだとしますと、ジルベール様がお間違いになったということよろしいですか?」
「それは違うわ!」
ニーナさんはわたしを鋭くにらみつけてきた。こっちに人差し指を突きつけて、今にも「首をはねろ!」と、命令しそうなほどの気迫なの。
「何なのよ、あなた! あなたは神子よ。どう見たって神子! お兄様が間違えるはずがない。あなた、お兄様を侮辱する気?」
「いえ、そんな、侮辱なんて」
神子なんだ、わたし。ここは異世界で、予言の神子がどうやらわたしらしい。だけど、神子って何する人だろ?
「とにかく、ここでは詳しい話はできません。城に参りましょう。異世界の御方も来ていただけますね」
そっか。忘れていたけど、ここは街の入り口なんだ。クラウスさんとニーナさんが街の人の視線を集めてる。街の人も外人だけど、クラウスさんとニーナさんはちょっと違う。笑顔を見ると、ボーッとなっちゃうくらい綺麗。わたしも目が離せなくなった。
「ちょっと、あなた、しっかりしなさいよ!」
ニーナさんがわたしの背中を思い切り叩いたことで、ようやく我に返った。