第43話『神子の公務』
門の前にひかえた騎士団の人たちが出迎えてくれる。剣を構え、1列に並んだ団員さんたちはすごい迫力があった。
きらめく鎧も兜も全部、本物なんだから驚いてしまう。きっと、この日のためにわざわざ重い鎧や兜を着てくれたのだろう。
いちいち申し訳なく思いながら、騎士団の間を通る。集まる視線をどうにかやり過ごしながら歩いていくと、1台の馬車に行き着いた。
馬車の外側には国の紋章の代わりに、とがった弁の赤い花が描かれている。
確か、花の絵は神子の部屋にも描かれていたはずだから、この馬車も神子専用なのかなと思う。馬車を目の前にしたら、いよいよ緊張してきた。足が震えてきてしまう。
クラウスさんに手を支えてもらい、馬車のなかに入る。がちがちに固まった体をふっかふかの長椅子に沈める。
内側には小窓がついていて、街並みが眺められるようになっていた。今はあんまり街並みを楽しむ余裕がないのが残念なくらい。
わたしの向かいにはクラウスさんが座ってくれる。腰には剣を携えていて、護衛をしてくれるのだろう。これで少しは安心できるけど、ふたりきりなんて別の意味で緊張してしまうかもしれない。
遅れて、エリエはわたしの隣に腰をかけた。何だ、ふたりきりじゃなかった。エリエの背筋はぴんと伸ばされていて姿勢が綺麗だ。わたしもがんばって腹筋に力を入れた。
わたしたちを乗せた馬車は発進した。ゆるやかに速度を上げて、やがて一定になっていく。小窓からのぞいてみると、街の人がたくさんあふれている。こちらに気づくと大きく腕を振ってくれる。
「神子様。お手を振り返したらいかがですか?」
「えっ、わたしが?」
「皆、神子様を一目見ようと集まったのですから、それくらいは」
「そっか」
神子としてできることは何でもしようと決めている。手を振るだけで喜んでくれるなら、どんどんやってみようと思って手を振り返した。
馬車はゆっくりと速度を落としていく。完全に止まると、目的の場所へと着いた。もう来てしまった。足だけじゃない、指先も震える。
「あー、怖いよ」声に出さずにはいられない。
「大丈夫です」
何を根拠に、なんて食ってかかりたくなるけど、相手がクラウスさんだもの。言葉がすんなりと入ってきて、不安よりも行かなくちゃという義務感のほうが強くなった。
だって、この誕生祭はわたしのために開かれたのだ。ちゃんとお礼ぐらい言わないと、悪い気がする。
「行きます。今、行かないといけなくなっちゃうかもしれないから」
ようは勢いなんだけど、この勢いのうちに行かないとダメ。わたしは立ち上がって、クラウスさんを待たずに馬車を飛び出した。




