第40話『マリアさんへ』
『マリアさん、お元気ですか? あなたと離れてからあまり怒られなくなって、ちょっとだけさびしいです。この手紙はクラウスさんに書いてもらっています。まだ、わたしは文字を書けないので。
わたしが神子になってからちょうど30夜が経ちました。前の神子のレーコさんがそうしたように、わたしも日記を書こうと思っています。もし次の神子が迷ったときや困ったときに役に立つと考えたからです。
そうそう、元の世界からスマホと呼ばれる機械を持ってきたのですが、わたしはその機械で元の世界の画像を残していました。
でも、その機械には充電というものがあって、それがなくなると、使えなくなってしまうのです。画像も見れなくなってしまいます。
少しあきらめていたのだけど、つい最近、嬉しいことがありました。
神子の肖像画が必要らしく、有名な画家の人が神殿にやってきたのです。そこには弟子の人もいて、わたしはダメもとで頼んでみたのです。スマホの画像を絵にしてくれないかと。
そうしたら、弟子の人が書いてくれることになって、何日か経った頃に絵が送られてきたのです。スマホの画面はすでに真っ暗だったけど、絵は忠実に画像を再現していました。
その絵は今も大事に、わたしの部屋に飾っています。毎日眺めては、懐かしい気分を味わったりしています。
どういう絵かといえば、唯一、家族で撮った画像です。おとうさんとおかあさんが一緒にいる画像なんです。
もう元の世界に戻れないのかわたしには知りませんけど、元の世界を忘れる気はないです。
マリアさんにだけは言いたいのだけど、わたし、ここに来てしあわせです。
マリアさんともまたお会いしたいです。いつになるかなあ? それではお会いできるその日までお元気で』




