第31話『食後のお茶』
結局、朝食は味もわからないまま終わった。ジルベール様の押しの強さで、食後のお茶も一緒にしている。本当は早くこの場から立ち去って、ひとりの時間を過ごしたい。
そうしたいのはやまやまだけど、お茶会はなかなか終わりそうになかった。
楽しそうに会話するジルベール様の前では笑顔を振りまいた。強がりだとわかっていたけど、弱っている自分を見せたくないし、心配をかけたくはなかった。表向きはなごやかに会話は弾んだ。
「そうだ。ミャーコ」
「はい」
「午後はサディアスのところに行く予定だよね?」
「はい、その予定ですけど」
実はサディアスの部屋に行って愚痴をぶちまけるつもりだった。クラウスさんがいないことも、神子になるのがとても不安で怖いことも全部。
あいつなら「そんなことで悩んでどうする?」と、わたしの代わりに鼻で笑ってくれるはず。「バカが悩んでも大した答えは出ない」とも言われるかもしれない。そのときはムカつくだろうけど、落ちこんだりはしないと思う。
でも、何でそんなことを聞いてくるんだろ? わたしはジルベール様の問いかけに嫌な予感がした。とっても嫌ーな感じ。
「午後のサディアスとの授業を取りやめて、ある人と会ってくれないか?」
「えっ?」
「お兄様、まさか」
ニーナさんが何かを察知したみたいで、驚いたように口をはさんだ。
「ああ、僕の占い師と会ってほしいんだ」
「占い師ってジルベール様のお付きのですか?」
「そうだよ。ミャーコと話したがっていたから喜ぶだろうな」
悪いけど、ジルベール様の「話したがっている」というのは当てにならない。サディアスの時も検討違いだったし、今回も違うだろうなと思う。
「えっと」
断りたくて仕方がないのに、ニーナさんがわたしをにらんだ。「あなた、断る気じゃないでしょうね」と怒られているみたい。あんまり波風も立たせたくないし、断るうまい理由も見つからない。
「はあ、わかりました」
ため息をごまかすために言葉を続ける。幸い、にこやかに笑うジルベール様には気づかれなかったようだ。
「良かった。それでは昼食後に行ってくれるね?」
「はい……」
今日はサディアスには会えない。なぜかそう考えたら、むしょうにあの薄暗くて不健康になりそうな部屋が恋しく感じた。




