第3話『森のトンネル』
花畑のなかで毛並みに癒されていたんだけど、白馬はゆっくりとわたしから遠ざかっていった。森に向かって歩く白馬にも帰る場所があるのかもしれない。帰りを待つ家族だっているのかも。
淋しくなるけど、ここでお別れかな。そう思ったら、白馬は足を止めてこっちを振り返った。変わらないつぶらな瞳で見つめてくる。
「なに?」
白馬は何にもしゃべらないけど、その瞳は「ついてこい」と言われているみたい。そんな瞳で見つめられたら仕方ないよね。
スカートについた葉っぱを手で払ってから立ち上がる。急いで近づいたら、白馬はまた先に進んでしまうの。やっぱり、どこかに連れてってくれるのかもしれない。
白馬を追いかけて森の薄暗い中へと入っていく。
あれ? 真っ白なふわふわうさぎも、ぴょこっと飛び跳ねてついてきた。でも、わたしじゃなく、白馬の後ろについてきているみたい。人間のわたしがいても逃げないでいるし、慣れているのかな。それなら触っても大丈夫なのかもしれない。
うさぎを撫でようと近づいたら、小さな体は嫌がって逃げる。何度も試してみたけど、全然ダメ。かなり素早いの。可愛いんだけどな。
諦めて白馬の後ろをついていったら、それまで適当に生えていた木々が密集してきた。アーチ型になっているから森のトンネルって言っていいかも。
邪魔な草むらや岩もなくなり、地面も平らになってきた。ちょっと坂になっているんだけど、ゴツゴツしていないから歩きやすい。
何でこの道だけちゃんと整備されているんだろう。人の手が入っているみたい。坂を登りきったら、わたしの夢ってすごいなーと感心してしまった。
だって、森のなかにネットみたいなのが張ってあったの。植物のつるで編みこまれたネットは、ふたつの柱でたるまないようにぴんと張られていた。これ、ハンモックにしてもいいかも。人差し指をネットの目にかけようと近づけたら。
「きゃっ!」
わたしの体が吹っ飛んだ! まるで誰かに押されたみたいに、地面にお尻をついてしまった。白馬は心配そうにわたしの顔をのぞきこんできた。
「何よ、これ」
もう1回、ネットに触れると同じことが繰り返される。バカなわたしでもわかった。ネットが吹っ飛ばしているってこと。
白馬はそんなおバカなわたしを置いて、ネットに向かって歩いていってしまう。危ないからやめたほうがいいよ。止めようとしたら、白馬の鼻先がネットにくっついたら、頑なだったつるが解かれていった。