第28話『薄暗い部屋で』
午後からは予定通り、サディアスの部屋に行った。相変わらず薄暗い部屋でろうそくの明かりだけが頼りになっている。わたしはひとりがけの椅子に座って、明かりに浮かぶサディアスの顔に視線を移した。
「ねえ、森に侵入者なんてこと、結構あるの?」
「あるが、クラウス・ヴォルグフートが直々に出ていくとなると、相当な侵入者だな」
「クラウスさんってそんなにすごい人?」
「ベルホルンの第3部隊の副隊長だからな」
「副隊長さん!」
知らなかった。副隊長さんがわたしを護衛しているなんて、ありがたいけど、すごくもったいない気がする。
「お前を探すときも護衛を決めるときも、自ら志願したらしい」
「何でそこまで?」
「俺が知るか。本人に聞けばいいだろ」
「そうだけど」
聞きたいときに本人はいない。今までずっとそばにいたのに、わたしはクラウスさんに興味を持たなかった。そんな自分がバカみたいで悔しい。
「ねえ、サディアス。わたしってどうやって探されたの?」
「今日は質問づめだな」
「いいでしょ。それがあんたの仕事なんだから」
「ふん」
お得意のしぐさのあとは、ちゃんと説明をしてくれた。相変わらずえらそうで、人をけなしまくったけど、わたしの頭のなかには入った。
「つまり、国王様のお付きの占い師さんがわたしを予言して、画家に肖像画を描かせた。その背景が森のなかにある花畑だった。だから、花畑にクラウスさんがいたってことね。でも、ニーナさんまで何で?」
「ニーナ……姫にもそれなりの事情があるのだろう」
「事情……」
「そこまでは教えられない、俺の口からはな」
サディアスがニーナさんに敬称をつけたり、気づかったりするなんてめずらしい。
もしかして、サディアスってニーナさんのような強気な女性が好きなのかも。好きだからあんな気のないことも言っちゃうの?
「おい、良からぬことを考えるな」
「良からぬことって何よ?」
「女はすぐ、色恋沙汰に持っていく」
な、何でわかるんだろう。わたしが考えかけたことを当てるなんて。
「違うから。わたしはサディアスのことを考えてたの」
嘘じゃない。サディアスのこともニーナさんのことも考えてた。
眼鏡の様子を眺めてみたら、ろうそくの明かりはただただ、サディアスの無表情を浮かび上がらせるだけだった。




