第22話『サディアスの部屋』
薄気味悪いほどの暗い部屋のなかで、机や棚のかたちが浮かび上がる。何で、こんな暗いところにいるのよ。
サディアスに怒りをぶつけながら乱暴に歩いていると、奥に1ヶ所だけ明るい場所があるのを見つけた。
ろうそくの頼りない明かり。小さい明かりに照らされたテーブルに向かって、体を曲げている人影。あの猫背はサディアスだと思う。
結局、明かりをつけるなら、カーテンを全部開けたらいいのに、変なこだわりを持っている。
変な人――サディアスにどう声をかけたらいいのか迷って立ち尽くしていたら、「おい」と呼ばれた。ばれちゃったみたい。
顔の一部みたいな眼鏡がわたしの方に向いていた。暗闇のおかげで表情は隠されていたけど、きっと、不機嫌なんだろうな。
「何の用だ?」
「えっと、先生に聞きたいことがあるんです」
疑問をぶつけようと息を吸ったら、わたしが話す前にサディアスがさえぎってきた。
「先生? お前は尊敬していない者を先生と呼ぶのか?」
「だって、あなたはわたしの教師でしょう?」
教師を先生と呼ぶのは当たり前だと思うけど、サディアスは違うらしい。鼻で笑ってわたしをバカにした。
「お前の教師なんて願い下げだ、俺は」
何でこんなやつにこんなことを言われなきゃならないの。もう我慢なんかできない。息を大きく吸う。
「わたしだって、あんたなんかを先生なんて呼びたくないし、教わりたくない!」
「うるさい」
「うるさくない! わたしはあんたみたいな人間、嫌いだし! 悔しかったからわたしの疑問に答えてみなさいよ! そうしたら、おとなしくなってあげるから」
「ああ、いいだろう。疑問をぶつけてみろ」
余裕ぶっているのは今のうちだけよ。この疑問に答えられるわけがないのだから。
「じゃあ、わかった、疑問ね、いいわよ。わたしが何で神子なの? 異世界から来たってだけで神子なんて、どう考えてみてもおかしい。わたしには特殊な力なんてないの。わたしは普通の人間よ」
レーコさんの時代から明らかになっていない疑問を、サディアスにわかるわけない。きっと、うつむいた顔は考えすぎて、しぶい顔をしているはず。
でも、予想と違って、押し殺したような笑い声が聞こえてきた。
「何がおかしいの?」
「そんなことかと思ってな」
「じゃあ、答えられるって言うの!」
「ああ、だから、おとなしくそこに座れ」
サディアスは椅子から立ち上がったかと思うと、指で指し示した。




