第21話『レーコの疑問』
神子の部屋に戻ったら、すぐにレーコさんの日記を引っ張り出して、ページをめくった。日記は2日目になっている。わたしはわくわくしながら文章を目で追った。
『今日は国王から直々に説明を受ける。
神子になるには儀式が必要で、それまでにたくさんの勉強しろと言われた。
でも、納得がいかない。
何で、異世界から来たってだけで、わたしが神子をやらなければならないの?
大した力もないのに、わたしが神子だっていう証拠があるわけ?
それを国王にぶつけたら、また、そういうしきたりなんだと説明してきた。
納得いかない。納得いかないから国王に調べてこいと命令してしまった。
どうしてわたしが神子なのか、説明できなければ、わたしは協力しない。ぜーったいにね』
レーコさんの日記を読むと、わたしのなかにも同じように疑問がわいてくる。何でわたしが神子なのか? その理由が知りたい。神子である証拠を見せてほしい。
もし、サディアスにこの疑問をぶつけたりしたら、あの失礼な男はちゃんと教えてくれるのかな? もしかしたら答えられなくて、すごく困ったりして。
眼鏡の奥の無愛想な顔がゆがむところを見てみたい。「何だ、答えられないの」と、勝利を確信して高らかに笑うわたしの姿が見える。
それを考えたら部屋でじっとなんてしていられなかった。
勢いよく部屋を飛び出して、入り口にいたクラウスさんを見つける。わたしが部屋にいる間も交代しながら、こうして護衛をしているらしい。
「慌ててどうされたのですか?」
「サディアス……先生に聞きたいことがあるんです」
一応、「先生」をつけてみた。教師ってことになっているし、呼び捨てはまずいはず。そうしたら、「私も同行させていただきます」とクラウスさんは言ったの。
「あの、ありがとう」
「いいんですよ。これが私の仕事ですから」
さすが仕事熱心のクラウスさんのことだ。彼は言葉どおり、わたしにつきそってくれた。ちゃんと、サディアスの部屋まで案内してくれた。
とても暗い通路の奥、わざわざ窓が布で閉ざされているの。布はぴらぴら動くことはなく、窓に張りつくようになっていた。
その先にある薄暗い通路に扉があった。あっという間にサディアスの部屋の前に着いてしまったみたい。
「私は入り口で待っていますから」
「は、はい」
心を落ち着かせてノックしたけど、いつまで待っても反応はなし。
「サディアスのことですから、何かに没頭しているのでしょう。入っても大丈夫ですよ」
クラウスさんがそう言うなら大丈夫だと思う。銅でできたドアノブをつかんで扉を開いた。簡単に開いてしまった以上、入らなきゃならない。わたしは真っ暗な部屋へと足を踏み入れた。




