第18話『失礼な教師』
もやもやは晴れないけど、「ミャーコ」と呼ばれて顔を上げた。
「これからについて、ちゃんと話しておきたいのだが、いいかな?」
ジルベール様はわざわざ聞いてくる。きっと、昨日の態度が悪かったからかもしれない。やっぱり気をつかわせているんだ。それが嫌だから、大きくうなずくことにした。
「きみにはまず正式に神子となる儀式を受けてもらう。それまでは30夜あるから、その間にこの国について学んでほしいんだ」
「30夜って何ですか?」
「こちらでは日を数えるときに夜を使うのです」
クラウスさんが教えてくれる。そうなんだ。ということは「30日後」に神子の儀式は行われる。あれ? でも何で、クラウスさんはニホンの日の数え方を知っているのかな?
その疑問をたずねる前に、ジルベール様が「さすがにクラウスは異世界のニホンについてよく知っているね」と称えた。なるほど、だから知ってたんだ。
「ミャーコ、クラウスはニホンが好きなんだ。きみも協力してあげてほしい」
「は、はい。わたしなんかで良ければ」
「ありがとうございます」
クラウスさんはにっこりと笑みを浮かべてくれる。
「それで、きみに紹介したい人がいる。サディアス」
ジルベール様が呼びかけると、花のアーチをくぐり抜けて、こちらへと歩いてくる男の子の姿が見えた。
丸眼鏡をかけた無愛想な顔。赤い髪の毛はクセがあって、跳ね上がっている。ひょろりと高い背は姿勢が悪く少し曲がってしまっている。
「彼はサディアス・クロス。きみの教師だ」
えっ? 教師なの? たぶんわたしと年齢は違わないんじゃないかな。首を傾げて眼鏡の奥を見ていたら、強い眼光でにらみつけられた。ニーナさんとは別の意味で怖い。
「……教えたくはないが、国王の命令なら仕方ない。俺は神子だとしても手加減はしないからな」
サディアスがはじめて放った言葉に、わたしはただ見つめるしかできなかった。信じられない。初対面の相手にそんなことを言うのは何で? 横からニーナさんの上品に笑う声がした。
「サディアス。あなたのことはこれっぽっちも好きではないけれど、その姿勢はまあまあ素敵ですわ」
「俺もお姫様のことは好きじゃない。誉められても嬉しくないしな」
「何よ! わたしに誉められるのは名誉なことなのよ! 本当にあなたってバカ! ミャーコと一緒よ!」
ニーナさんが相手でも失礼な態度をする。こんなやつと一緒にしないでほしい。絶対に違うんだから。
わたしはよろしくなんて嫌だけど、一応、「よろしくお願いします」と頭を下げた。それにサディアスは「ふん」と鼻で笑った。
やっぱり頭なんか下げなきゃ良かった。




