第17話『神子だから』
軽いお茶会がはじまってから、ジルベール様はわたしを気づかってくれた。
「顔色は昨日よりかいいね。何か、不自由なことはないかな?」
これだけ優しくされると、レーコさんみたいにハゲろとは思えない。
「あ、ありません。十分していただいてます、本当に」
顔色はメイクでごまかしてもらったし、ドレスも素敵なものを着させてもらった。部屋だって広さも家具も十分あるし、これ以上望むものはない。
だって、一番の望みである「帰りたい」と言っても、聞き入れてはもらえないと思う。だから、何にもないの。
「そうか、何か不自由があれば、遠慮なく言ってね」
にこやかに答えたジルベール様が、「朝食を」と使用人さんに声をかけた。
そうだ。昨日から何にも食べていなかった。色々あったから、お腹が減っていたのも忘れていたんだ。
意識したらキューっとお腹が動く。恥ずかしくて音を聞かれていないかを確かめたけど、誰も気にしていないようだった。良かった。
新鮮な野菜(この国でも野菜が栽培されているらしい)を使ったサラダにコーン色の冷たいポタージュ。平たく切り分けられたパンには、甘酸っぱいジャムをつける。中庭で食べる朝食はぜいたくな感じがした。
昨日から食べ物を口に入れていないせいか、よく食べられてしまう。だって、おいしいんだもの。お腹も満たされて顔を上げたら、ニーナさんはこちらを見ていた。
「あなた、本当にいやしいですわね」
「いやしい?」
お皿に乗っていたパンもスープも全部、お腹の中に入れたとき、ニーナさんからそう言われた。「いやしい」の意味がわからなくて聞いてみると、またにらまれてしまう。
「下品という意味ですわ。あまりにも大口を開けて食べるものだから、口元にパンくずがついていますわ。なんて汚ならしい」
うわ。慌てて口元に指をやると、確かにパンくずがついていた。無茶苦茶、恥ずかしい。穴が合ったら入りたい。そしてその穴に蓋をして、誰にも見られないように釘を打ちたい。
「ニーナ」
「だって、お兄様」
「ミャーコは神子だ。きみも彼女に対して尊敬の念を持たなければいけない」
あ、そうか。わたしが神子だから、ジルベール様は優しくしてくれるんだ。クラウスさんもそう。わかってはいたけど、実際に目の前で突きつけられると心のなかは複雑だった。
ニーナさんは「ごめんなさい」と呟くように小さく言う。わたしは首を横に振ったけど、気持ちはもやもやしていた。




