第16話『朝の中庭』
今回は謁見の間ではなく、お城の中庭で国王様とお会いすることになった。小鳥のさえずりに誘われて花のアーチの下をくぐる。
その先を見つめたら、神子の部屋の壁にも描かれていた花が実際のお庭にも咲き匂っていたの。とんがった赤い花弁にたくわえられた水滴は、跳ねるように地面に落ちていった。
白いクロスをかけたテーブルの上には、すでにお茶の用意がされている。
ニーナさんと国王様は席に着いていて、にこやかに言葉を交わしていた。
今日のニーナさんは淡いピンク色のドレスを着て、頭にも同じ色のリボンを身につけていた。ニーナさんがこちらに顔を向けると、リボンのフリルが可愛く揺れる。
「あら、ミャーコ、ご気分はいかが。今日はずいぶんとマシな格好をしているわね。昨日はひどかったわよ。あんな小さい生地で、旅の踊り子かと思ったわ。クラウスもお元気そうね」
「踊り子?」
踊り子ってダンサーってこと? 首を傾げたらニーナさんに鼻で笑われてしまった。
「頭の悪さは相変わらずね」
「ニーナ」
ジルベール様の一声でニーナさんは赤い唇を噛み締めた。やっぱりお兄様には逆らえないみたい。
「ミャーコ。今日は大人っぽいね。淡い青のドレスがよく似合っているよ」
「あ、ありがとうございます」
ジルベール様はさらっと誉め言葉を言ってくれる。背中がかゆくなるくらい恥ずかしくて、頬が熱くなる。
でも、突き刺すような視線を感じて、頬の熱がみるみるうちにひいていくのがわかった。視線の先にはもちろん、ニーナさんがいる。怖い。
「さあ、立ち話は疲れるだろうから、座って」
国王様が直々に椅子を引いてくれる。ジルベール様と向かい合うように座った。クラウスさんは「失礼します」と言って、わたしの横に腰を落ち着かせた。
「紅茶はお好きかな?」
「は、はい、大丈夫です」
ジルベール様からの何でもない質問にも緊張してしまう。お茶会なんてはじめてだし。
わたしの前にティーカップが置かれる。アイボリー色のカップの取っ手には金色の装飾がほどこされている。
指で触れるのも申し訳ないくらい。お茶を一口すするまでに相当な時間がかかってしまった。




