第142話『指輪』
困らせている自覚はある。市場という人目がつく場所で告白してしまったし、周りの人が好奇心の目で見ているのもわかっている。だけど、背伸びして真っ赤な首に腕を回した。そうすると、遅れて、サディアスの腕がわたしの腰を支えてくれる。
「好き。あんたはどうなの?」
「俺は……」
ようやく答えが聞ける。そう思ったのに返ってきた言葉はなぜか、「2年待て」だった。
「はあっ?」
「2年は短い。それまでにお前は女王となれ。女王となった暁には、お前の気持ちに応えてやる……そして、仕方ないからお前のそばにいて……」
サディアスが言い切るまでこらえていられなかった。首に回した腕を外して、にらみつける。
「仕方ないって何! やっぱり、やめ! 『好き』はなし!」
「ま、待て! なしにはするな! そうだ。これをやる」
飴でも渡すかのように簡単に指輪を渡してくる。指輪には小さなピンク色の石がはめこまれている。可愛らしいけど、こんなもので騙されるわたしではない。
「何よ、これ?」
「お前が言ったんだろう。装飾品は『心が軽くなったり、とっても楽しくなったりする』と」
確かにそんなことを言ったかもしれない。わたしですら忘れていたことをサディアスが覚えていたのには驚いた。
「じゃあ、わたしのためにこれを?」
「安かったからな」
嘘だ。値切ってたくせに。
それならと、わたしは指輪をサディアスに向かって突き返す。サディアスは受け取ってもらえないのかと悟ったのか目線を落とす。いや、違うから。
「ほら、はめてよ」と言って手を差し出すと「あ、ああ」とサディアスは目線を上げた。
サディアスの指先が小刻みに震えている。わたしの手首を優しく掴み、薬指にわっかを通す。付け根までぴったりはまった指輪は、まるで体の一部にでもなったかのように馴染む。
「わかった。2年は待つ。でもそれ以上は待たないから、覚悟してね」
笑ってやれば、サディアスもしょうがないと言うようにため息を吐く。嬉しいくせに。口元はかなりだらしなくなっているけど、指摘はしない。そんな可愛い顔を知っているのはわたしだけでいい。
こうしてわたしたちは2年後を約束して別れた。




