第14話『お世話』
世話係の3人は、クラウスさんの指示を受けてやってきた。そのうちのひとりはマリアさんといって、一番年長の人みたいだった。
昨日はあんまり余裕がなかったけど、今は少し名前や顔を覚える余裕があるの。
マリアさんは金色の髪の毛を後ろにまとめている。ちょっと目がつり上がって怖い雰囲気があるけど、仕事ができる人という感じがする。うちのお母さんに似ているかも。
「神子様、それでは参りましょうか」
声もはきはきとしていて、こちらも「はい!」なんて、つられてしまう。
マリアさんを中心とした彼女たちは、わたしを神子の部屋から連れ出した。出る間際にクラウスさんを見ると、彼はにこやかに見送ってくれた。
そうして、連れてこられたのは大浴場。
湯気が立ち上る浴場の壁には、大口を開けた白ライオンの顔があった。牙の間から勢いよくお湯が流れて、口の下の浴槽に音を立てて落ちていく。そこで体を清められるみたいだった。
異世界でもお風呂場があるなんて知らなかった。浴槽があるのは日本と少し似ている。それに浴槽には赤い花びらがちりばめられているから、花の甘い香りがするんだ。
浴槽に浸かる前に服を脱がされた。ファスナーとか驚いていたみたいだけど、さすがはみなさんプロ。あからさまに声を出したりしなかった。かごに衣服を入れて、マリアさんはシャツの袖をまくる。気合いいっぱいだ。
わたしの腕を掴み、ごしごしと洗う。そんなに汚れているかな、わたし。まだ1日しかお風呂に入っていないだけなのに、複雑だった。
お湯に浸かってホッとしたのも束の間、浴槽から出ると、お花の香りがする油を塗りたくられていく。甘いお花の香りにうっとりしながら、どうにかすべてが終わると白い布で体を包まれた。
これで終わりかと思ったら、次はまた別の部屋に連れていかれた。そこには全身鏡があったの。わたしは心細い気持ちで鏡のなかの自分と対面する。
マリアさんの指示で着々と服を身につけていくんだけど、淡いブルーのドレスだった。袖や襟がぴらぴらフリルなの。腰にはリボン。二の腕が出ちゃう。こんなドレスを着たの、はじめて。
耳たぶを挟むイヤリングとティアラは同じ宝石が使われていて、対なんだと思う。宝石は小さいけど、きらきら光っていてたぶん高い。これだけ着飾れば、わたしも綺麗に見えるかもしれない。
「お綺麗ですわ」
マリアさんはお世辞も心得ているんだ。お世辞だとしても、鏡のなかのわたしは口元がゆるんで仕方なかった。




