表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白馬と姫  作者: カーネーション


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

139/144

第139話『手紙』

 ベッドから視線を移して、何かおもしろいものはないかなあと、机の上を眺めてみる。


「あれ?」


 見覚えのある袋が目に入った。この丈夫そうな革袋は、本やなんかを入れるためにゲオルカで買ったものだ。どうも見かけないなあと思っていたら、サディアスの手元にあったらしい。


 一緒に旅をして来た物に愛着を感じて、わたしは袋に触れた。中に何が入っているのか気になって袋を持ち上げたとき、そこで、しかれていた手紙に気がついた。手紙にはたった一行だけ記されている。読んでみる。


「えっと、これってサディアスがよく使うから覚えとけって偉そうに言った単語だ。確か……」


 別れ際に使う。意味は日本でいうところの『さようなら』。


「さようなら?」


 サディアスが『さようなら』なんてどうして? そのとき、頭を過ったのは、レーコさんとサディアスのやりとりだった。


 レーコさんは「自由にする」と言っていた。「自由」がもし、お城を出て行くことだったとしたら。補佐官をやめて、わたしにも行き場所を伝えないことが「自由」だとしたなら。サディアスはもうここにはいない。すでに旅立ってしまっている。


 ――まさか、そんなわけない。サディアスがわたしに何も告げずにお城を出るなんて、あるわけない。きっと、まだお城のどこかにいる。


 手紙を掴んだまま、わたしは走り出した。サディアスを探さなければならない。あてなんてないけど、わたしは部屋を飛び出した。


 護衛の騎士が止める声も聞かない。ドレスの裾がめくれちゃっても、いちいち立ち止まって直す気にはならない。あまりに手に力が入りすぎて手紙がくしゃと音がする。すべてはどうでもいいことだ。


 ああなんてヒールの高い靴って走りにくいんだ。不安定に足を着地させると、かかとが痛む。通路の角を最短距離で曲がりきったところで、黒いドレスが目に飛びこんできた。レーコさんの横にはジュリアさんが護衛するようについていた。


「ミャーコ、血相を変えて、どうしたの?」


「こ、これ」


 乱れた息が邪魔をして、うまくしゃべれない。だから、手紙を差し出してみた。レーコさんは手紙を受け取ると、笑顔になる。


「あら〜、ラブレターにしては素っ気ないね〜」


「ら、ラブレターなんかじゃありません!」


「まあまあ、そんなに怒んないで。『さようなら』か……。サディアスは旅立ったんだね」


 レーコさんにはすべてがわかっているようだった。サディアスがお城を出ることを知っていて、彼に「自由」を与えたのだ。それを感じてしまうと、自分の母親だとしても許せない。


「どうして、あなたはサディアスを『自由』にしたんですか?」


 レーコさんが「自由」にしなければ、サディアスはずっとお城にいたはずだ。わたしの隣にいてくれたんだ。


 でも、口に出してしまってから、この怒りは間違っているとわかった。自分だって「自由」を求めて、お城を飛び出した。結局、レーコさんを放っておけず戻ってきたけど。


「本当はミャーコが一番、わかってるよね。すべてはサディアスが望んだことなんだってこと」


「わかってます。でも、お別れの言葉くらいかけてくれたっていいじゃないですか。これまでの旅は何だったのかって……」


 うつむくと視界が歪んでくる。瞬きをすれば、涙が頬を伝っていく。


 ――泣いているんだ、わたし。涙を流してしまうほど、今の自分は悲しいって思っている。


「サディアスに会いたい?」


 レーコさんはわたしの顔をのぞきこむように首を傾けて、そう聞いてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ